【カンヌ国際映画祭】『Lingui』チャド、ここは弱肉強食なのさ…

Lingui,The Sacred Bonds(2021)

監督:マハマト=サレ・ハルーン
出演:Achouackh Abakar Souleymane,Rihane Khalil Alio,Youssouf Djaoro etc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたチャド映画『Lingui,The Sacred Bonds』を観た。監督のマハマト=サレ・ハルーンは日本ではそこまで知名度ないのですが、カンヌ国際映画祭の常連監督となっている。本作は、望まぬ妊娠とチャド社会を描いた作品であり、いかにもパルム・ドールを狙いにいったような作品であったが、当時の星評は芳しくなかったと記憶している。実際に観てみると、歪な作品であった。

『Lingui,The Sacred Bonds』あらすじ

On the outskirts of the capital of Chad, determined single mother Amina works tirelessly to provide for herself and her 15-year old daughter Maria. When Amina discovers Maria is pregnant and does not want a child, the two women begin to seek out an abortion, condemned by both religion and law.
訳:チャドの首都郊外で、シングルマザーのアミナは、自分と15歳の娘マリアを養うためにひたすら働いている。マリアが妊娠し、子供を欲しがらないことを知ったアミナは、宗教と法律の両方から非難される中絶を模索し始める。

MUBIより引用

チャド、ここは弱肉強食なのさ…

タイヤにナイフを入れ、引き裂いていく、中々分離できないタイヤ。ようやく、ワイヤのようなものを採取すると、作業場の全体が映し出される。そこには大量のタイヤがあり、いかに重労働かが分かる。そのタイヤから籠のようなものを作る。ある程度溜まったら街に繰り出す。道ゆく人に売るのだ。当然ながら値切り交渉がある。ここは弱肉強食の世界であり、人が交渉している中に平気で割り込んできたりする。例えば、同業者とイヤホンで音楽を聴き休憩をする場面がある。目の前に車が止まるので、すかさず一人が交渉する。「3000?2000なら買うよ。」「いや、3000じゃないと売らない」と綱引きしていると、もう一人が横入りしてきて、じゃあ私は2000で売るよと商売相手を横取りしてしまうのだ。そんな世界で生きる母アミナの娘マリアがある日、望まぬ妊娠をしてしまう。学校をやめることとなった彼女。アミナは過去の自分と照らし合わせて、マリアの中絶を助けることになる。

小津安二郎『東京暮色』のような冷たさと栄えの対比が特徴的な作品だ。学校関係のチャラいイベントにはどこか冷たい空気が流れており、学校をやめたマリアに対して噂話する声が不気味に広がっている。この宴に入れない空気感は、まさしく『東京暮色』の雀荘に近いだろう。


マハマト=サレ・ハルーンは『GriGris』同様、前半と後半で作風がガラリと変わる。望まぬ妊娠を扱った社会派ドラマからいっぺん、後半は不気味なサスペンスへと発展していく。半裸で銃を持った男が、ジワジワ追いかけてきたり、突発的で冷たい暴力が降りかかる。マハマト=サレ・ハルーンなりの『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』解釈ともとれるが、全体的にとっ散らかっていて、あまり良い作品とは思えなかった。

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※MUBIより画像引用

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