【クローネンバーグ特集】『ファイヤーボール』クローネンバーグの現場vs経営者論

ファイヤーボール(1978)
FAST COMPANY

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジョン・サクソン、ニコラス・キャンベル、ウィリアム・スミス、クローディア・ジェニングス、ドン・フランクス、セドリック・スミスetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

デヴィッド・クローネンバーグのフィルモグラフィーにおいて最も異色な『ファイヤーボール』のブルーレイを購入したので観た。クローネンバーグ作品といえば、暗くて有機物と無機物が融合した世界で哲学を語る作品が多い。確かに本作は爽やかな青空の中で直線レースをする『ワイルド・スピード』1作目みたいな爽快さがある作品である。しかし、そこにもクローネンバーグエキスは存在しました。

『ファイヤーボール』あらすじ

チーム“ファスト・カンパニー”のレーサー、ラッキーマンことロニーはドラッグレース界の人気者。彼は悪徳スポンサーのフィルに反抗したため、レース界から追放されてしまうが……。カーマニアでもあるクローネンバーグ監督が手がけたレース映画。そのフィルモグラフィの中では、あまりにも異色。

映画.comより引用

クローネンバーグの現場vs経営者論

今にも爆発しそうな車。その人間味ある動きは、後退する車があまりしない挙動でもって増幅される。人間は、狭い車に押し込められ、無機物と一体化している。そんな異様な状況からのレースを魅せていく。やがて爆発事故が起きる。より速く、試合で活用にリスキーなチューニングを行った結果だ。それに対してスポンサーが怒る。速さを求める現場に対して、スポンサーは立場が異なる。あくまで、カーオイルが売れればいいのだ。宣伝になれば、勝ち負けはどうだって良いのだ。だから、勝つためにコストが上がることを好ましくないと思っている。チームをあっさり解散させられたメンバーは、復讐の炎を宿し、レースに挑む。

クローネンバーグはトリッキーな演出の中に、人間の本質を突く。それは時に未来の心理を投影したりする。『ファイヤーボール』は原題「FAST COMPANY」だけに、企業の安易な判断を分析した経営学的物語といえる。利益を最大化するために、理想を踏みにじる。企業の「早さ」と現場の「速さ」の違いが生み出す憎悪の力強さを、人間味ある車の動きで表現しているといえる。

そして、人間が炎に包まれる時、それは憎悪が着火する瞬間であり、ジレンマに苦しむ労働者を癒す存在へとなった。

クローネンバーグはやはり最高な監督であった。

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※IMDbより引用