『脳に烙印を!』あなたの脳にノスタル自慰を!

脳に烙印を!(2006)
Brand Upon the Brain!

監督:ガイ・マディン
出演:グレッチャン・クリック、サリヴァン・ブラウン、マヤ・ローソン、キャサリン・E・シャーホンetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ガイ・マディンの自伝的映画『脳に烙印を!』を観た。本作は数少ない日本に紹介されたガイ・マディン映画であり、東京フィルメックスの特集上映で降臨した経歴がある。当時の私は小学生だったので、羨ましいと思う一方今出会ってよかったとも思う。さて、本作は、ガイ・マディン映画の中でもトップクラスに面白い一本であった。

『脳に烙印を!』あらすじ

奇才ガイ・マディンが自らの幼少期を大胆なイマジネーションで脚色した傑作。孤島を舞台に奇妙な一家を描き、独創的な怪奇趣味により奇想天外な物語が繰り広げられる。

※東京フィルメックスより引用

あなたの脳にノスタル自慰を!

灯台にガイ・マディンがやってくる。廃墟となった場所で絵を描こうとすると、過去の残像がボゥと浮かび上がる。テレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』のように自分の人生を感傷的に描くノスタル自慰映画はあれども、これはガイ・マディン映画だ。彼がノスタル自慰するとは、すなわちサイレント映画の文法でそれをやるということに等しい。スタイリッシュに、浮かび上がる過去の残像をチラつかせながら回想が始まる。

母からの監視、抑圧への怒りをあらわにした本作は、怪物のような奇怪な動きをする母が、戦闘機のような灯台から監視する異様な光景を紡ぎ出す。”Big Brother is watching you.”と言いたげな灯台の下でガイ・マディンや仲間たちがごっこ遊びをしながら、自由を求めて母と対峙する。バレるかバレないかサスペンスの中、序盤に登場するあるガジェットを使いながら、母を攻略しようとする過程は観ていて楽しい。

ノスタル自慰映画は自己満足を超えて、監督の執着が投影されると面白いのだが、まさしく本作はそうだ。相変わらず、言語化しにくい作品ではあるが、一度観たら忘れられない傑作だと言えよう。2022年、日本ではジャック・リヴェット、エリック・ロメール、ロベール・ブレッソン、レオス・カラックス、カレル・ゼマン、タル・ベーラと様々な巨匠の旧作大量放出祭が繰り広げられているが、もうそろそろガイ・マディン映画を上映してもいい頃なのではないでしょうか?

ガイ・マディン映画記事

【ガイ・マディン特集】『臆病者はひざまずく』乳房を求める手を顕微鏡で覗いてみよう
【ガイ・マディン特集】『CAREFUL』マーティン・スコセッシ出演予定の山映画
【解説】『The Green Fog』ゴダールを指パッチンで凡人に変える男ガイ・マディン緑の魔法

※MUBIより画像引用

created by Rinker
Zeitgeist Films