『Balanța/The Oak』ルーマニア、ネラの奇妙な冒険

Balanța(1992)
英題:The Oak

監督:ルチアン・ピンティリエ
出演:Maia Morgenstern,Răzvan Vasilescu,Victor Rebengiuc etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ルーマニア映画史の重要人物ルチアン・ピンティリエの代表作『Balanța(The Oak)』を観ました。本作は、カイエ・デュ・シネマの年間ベストにも選出された作品です。これがとても奇妙な作品でした。

『Balanța』あらすじ

A description of Romania before Ceausescu’s downfall, through the story of Nela. Daughter of a former colonel of the Securitate, the romanian political police. She refused to become as her sister, an agent of this Securitate, and lives with her father. After he died, she leaves Bucarest, and ends up in a little town, where she meets Mitica, a surgeon, another herself, laughing of everything.
訳:チャウシェスク政権崩壊前のルーマニアを、ネーラの物語を通して描く。ルーマニアの政治警察「セキュリタート」の元大佐の娘。姉のようにセキュリタートの諜報員になることを拒み、父と二人で暮らしている。父の死後、ブカレストを離れ、ある小さな町にたどり着いた彼女は、そこで外科医のミティカと出会うが、彼女は何もかもを笑い飛ばす、もうひとりの自分だった。

IMDbより引用

ルーマニア、ネラの奇妙な冒険

水浸しの集合住宅の舐めるようにして建物に侵入する。父と娘がホームビデオを観る。それはサイレント映画のようで、クリスマスを祝っているかに見える。少女に銃が渡ると、それをもって虐殺が始まる。銃声は聞こえない。荘厳な音の中で、ただ殺戮が繰り返されていく。強烈な冒頭から始まると、父は死ぬ。廃墟同然のボロアパートでネラは精神を崩壊させていく。やがて父を火葬し、自分探しの旅に出る彼女は数奇な冒険へと誘われていく。

『Terminus Paradis』もそうだが、ルチアン・ピンティリエの作品は突然ジャンルが変わる傾向があるようだ。 本作では、父の喪失で精神が蝕まれていく女性の話かと思いきや、いきなり青春ロードムービーへと変わり、密集する列車の中、人を押し分けて窓から呼吸をしようとする過酷な旅は、バックパッカーの冒険を彷彿とさせる。その手のジャンルだと安心していると、いきなり周囲が火の海の戦場になったりする。

日常と非日常が曖昧に混ざり合い、混沌を広げていく様子は、まさしくルーマニア社会の混乱を象徴していると言える。最初に観たルチアン・ピンティリエ映画としてはかなり飲み込みづらいものがあるものの、次々と予測不能な展開を巻き起こしていく様子に興味深いものがありました。

ルーマニア映画記事

【ネタバレ考察】『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』ハリボテのマスクは、アバターを現実に引き摺り出す
【JAIHO】『アーフェリム!』自らの暴言に気づかぬ世界
【ルーマニア映画】『ラザレスク氏の最期』死にゆく身体は何処へ?
【NETFLIX】『雪の峰』ルーマニア、全てをコントロールしたい有害な男
【MUBI】『荘園の貴族たち/MALMKROG』貴族のマウント合戦に参加しないか?

※MUBIより画像引用