【ルーマニア映画】『ラザレスク氏の最期』死にゆく身体は何処へ?

ラザレスク氏の最期(2005)
Moartea domnului Lazarescu

監督:クリスティ・プイウ
出演:イオアン・フィスクテーヌ、ルミニツァ・ゲオルジウ、ドルー・アナ、ダナ・ドガル、モニカ・バルラディアヌetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

イメージフォーラム・フェスティバル2021でルーマニア映画特集が組まれる。『コレクティブ 国家の嘘』なんかを観ると、今の日本を取り巻く閉塞感がルーマニア映画で観る光景と重なっている気がしており、今こそ日本でルーマニア映画が観られるべきだと感じている。さて、今や日本の医療現場は崩壊しており、自宅療養を余儀なくされるケースが相次いでいる。そんな状況と重なる地獄の名作『ラザレスク氏の最期』を紹介する。

『ラザレスク氏の最期』あらすじ

ある日突然、体に異変を感じはじめた一人暮らしの老人。体調不良の原因を突き止めて適切な処置を受けるため、いくつか病院をまわる羽目になるが…。

※netflixより引用

死にゆく身体は何処へ?

ラザレスク氏は腹痛、頭痛に見舞われ、電話をする。

「救急車をよこしてくれ」

しかし、20分経っても救急車は来る気配なく、再度電話する。この間にも刻一刻と彼の体は蝕まれていく。あまりに救急車が来ないので、近所の人に助けてもらいながら待つとようやく救急隊員が来る。しかし、なかなか救急車に乗せてもらえない。「明日になったらよくなっているよ。」となけなしの言葉をかけて、病院へ連れていこうとしないのだ。というのも、医療現場が崩壊しており、十分人を受け入れる余裕がないらしいのだ。

どうもラザレスク氏には潰瘍があるらしく、本格的に病院に行かないといけなくなりようやく動き出す。じわじわと痛みに苦しめられるラザレスク氏が生み出す居心地の悪い状況に観る者は惹きこまれる。そして不安は的中する。病院につくが、貧相な設備の中、ウジャウジャいる患者の横で、力ない診断が行われていき、「ここではだめだ」と別の病院へたらい回しにされていく。救急隊員は医者ではないので、医者に診断してもらう必要があるのだが、彼女もたらい回しにされていく様子に苛立ち暴走し、病院で喧嘩を始めたりする。患者からしたら溜まったもんではない。目の前で、自分の処置について喧嘩をしているのだから。

このような、カフカ的気持ち悪いたらい回しを2時間半突き付けていく。これの成れの果てが15年後の『コレクティブ 国家の嘘』だと思うと恐怖しか抱かない。そして、その責任の押し付けあいと、リソース不足によるしょうもない軋轢は今の日本にも繋がっている。

『ラザレスク氏の最期』はまさに絶望の傑作であった。

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※mubiより画像引用