『パリ13区』団地映画が「見えない化」された存在を「見える化」する。

パリ13区(2021)
原題:Les Olympiades, Paris 13e
英題:Paris, 13th District

監督:ジャック・オーディアール
出演:ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン、ジェニー・ベス、ステファン・マナス、Geneviève Doang、Lumina Wang、Pol White etc

評価:55点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第74回カンヌ国際映画祭にジャック・オーディアール新作『パリ13区』が出品された。本作は、今脂の乗った映画人であるセリーヌ・シアマとレア・ミシウスが脚本で参加している。また、撮影監督はレア・ミシウスの『アヴァ』やセバスチャン・リフシッツ作品を手掛けているポール・ギロームだったりする。そして、本作は『ディーパンの闘い』に引き続きジャック・オーディアールのフランス団地映画(バンリューもの)である。これは非常に興味深い組み合わせである。観てみたら、ピンとは来なかったものの注目ポイントに満ちた作品であった。

『パリ13区』あらすじ

「ディーパンの闘い」「預言者」などで知られるフランスの名監督ジャック・オーディアールが、「燃ゆる女の肖像」で一躍世界から注目される監督となったセリーヌ・シアマと、新進の監督・脚本家レア・ミシウスとともに脚本を手がけ、デジタル化された現代社会を生きるミレニアル世代の男女の孤独や不安、セックス、愛について描いたドラマ。再開発による高層マンションやビルが並び、アジア系移民も多く暮らすなど、パリの中でも現代を象徴する13区を舞台に、都市に生きる者たちの人間関係を、洗練されたモノクロームの映像と大胆なセックスシーンとともに描き出していく。コールセンターでオペレーターとして働く台湾系フランス人のエミリーのもとに、ルームシェアを希望するアフリカ系フランス人の高校教師カミーユが訪れる。2人はすぐにセックスする仲になるが、ルームメイト以上の関係になることはない。同じ頃、法律を学ぶためソルボンヌ大学に復学したノラは、年下のクラスメイトたちに溶け込めずにいた。金髪ウィッグをかぶり、学生の企画するパーティに参加したことをきっかけに、元ポルノスターのカムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)だと勘違いされてしまったノラは、学内の冷やかしの対象となってしまう。大学を追われたノラは、教師を辞めて不動産会社に勤めていたカミーユの同僚となるが……。グラフィックノベル作家エイドリアン・トミネの短編集「キリング・アンド・ダイング」「サマーブロンド」に収録されている3編からストーリーの着想を得た。2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

映画.comより引用

団地映画が「見えない化」された存在を「見える化」する。



フランス映画、パリを舞台にした映画は移民がいないかのように振る舞うことが少なくない。『最強のふたり』以降、多少映画の中で移民を見かけることはあるが、パリを巡ると感じるレベルの人種の交差は見受けられない。一方で、マチュー・カソヴィッツ『憎しみ』以降、フランスの団地(バンリュー)を舞台にした映画では、移民の生活に寄り添った作品が見受けられる。『レ・ミゼラブル(2019)』や『呪術召喚/カンディシャ』では白人と黒人の関係が描かれており、リアルなフランス像が見える。

さて『パリ13区』はどうだろうか?

ジャック・オーディアール、セリーヌ・シアマ、レア・ミシウスはこのようなフランス団地映画の法則を踏襲しつつも、更なるフランスの解像度上げを試みている。というのも、主人公がアジア系なのだ。確かに、フランス団地映画ではアフリカ系とフランス人の関係を描くことは多いが、アジア系が前面に出てくることは珍しい。非団地映画となるとさらにアジア系は「見えない化」されているのだ。しかし、確実にアジア系もパリで生活している。実際に、13区にあるトルビアック通りは中国、ヴェトナム、カンボジア等の料理店が並ぶアジア街となっているのだ。

主人公エミリー(ルーシー・チャン)はコールセンターで働いている。そんな彼女のもとにルームシェアを希望する高校教師カミーユ(マキタ・サンバ)が現れる。女性だと思っていたら、いきなり黒人男性が現れて困惑するエミリーだったが、すぐさま打ち解けあい、肉体関係を結ぶ。そこに大学を追われたノラ(ノエミ・メルラン)が加わり、奇妙な関係性が見えてくる。

本作は、団地映画ならではの人種へフォーカスを当てながらも、個人主義社会における親密さを掘り下げていく普遍的な内容となっている。すぐにカミーユはエミリーと肉体関係を持つが、別の日には部屋に別の女性を連れ込み性行為を行う。話している時は親密そうに見えるが、心の奥には個があり孤独がある冷たさ、その冷たい社会において真の親密さは生まれるのかについて眼差しを向けているのだ。正直、この手の性の話はあまり関心がないためイマイチ乗れなかったのですが、フランス団地映画に新しい視点を見出した重要作と言えよう。

P.S.先日、職場の50代ぐらいの人に「今時の子ってマッチングアプリで出会うっぽいけど、浅い付き合いしかできないのでは?」と言われ、「いや、合コンこそ浅い付き合いしかできないでしょ」と返したが、本作を観ると「確かに、その側面あるかもな。」と思った。

第74回カンヌ国際映画祭関連記事

<考察>『アネット』カラックス過去作との決定的な“違い”とは?
【考察】『MEMORIA メモリア』オールタイムベスト級の体験を紐解く
【ネタバレ考察】『ドライブ・マイ・カー』5つのポイントから見る濱口竜介監督の深淵なる世界
『Benedetta』ポール・バーホーベン流、信仰風刺画
【ブリュノ・デュモン】『FRANCE』死セル・フランス、仮面の告白
『ベルイマン島にて/Bergman Island』私とベルイマンイキリマンとの思い出
『FLAG DAY』ショーン・ペンの男はつらいよ
【カンヌ国際映画祭】『Lingui』チャド、ここは弱肉強食なのさ…
『フレンチ・ディスパッチ』ウェス・アンダーソンのカラクリ屋敷
『チタン/TITANE』パルムドール受賞作は車と交わり妊娠する殺人鬼の話だった件
『インフル病みのペトロフ家』寝ても覚めてもノイズが干渉する
『Casablanca Beats』歌え、踊れ、戦え!

※映画.comより画像引用

created by Rinker
角川書店 (映像)