【アルバム感想】ピーナッツくん『Tele倶楽部』

【アルバム感想】ピーナッツくん『Tele倶楽部』



ピーナッツくんのアルバム『Tele倶楽部』。本作はVTuberとしてのピーナッツくん像を形成する作品だ。VTuberはYouTuber以上にコラボを行う傾向がある。しかも、事務所関係なくコラボする。実際に、ピーナッツくんは「にじさんじ」の剣持刀也をはじめ、おめがシスターズ、名取さな、デカキンなどといった様々なVTuber、YouTuberと一緒に企画を行っている。『Tele倶楽部』では他のVTuberとのマリアージュをメインにしている。そして、リリックにピーナッツくんが仮面の裏側で感じている他者とのコミュニケーションに対する壁、特に女性に対する壁が綴られている。


意外なのは、もはや親戚同士の関係、親密な関係でコラボしている「おめがシスターズ」とのコラボ曲「KISS(feat.おめがシスターズ)」ですら異性とふたりきりになった時の緊迫感を語るものとなっている。

言葉にできない形
この想いのネタバラシ
正直になれない悲しい
君もそう思っててほしい
でもこの関係保持しちゃう


自分から切り出せない様子に苦しむ自己を吐露しているのだ。名取さなとのコラボでなら、この楽曲はわかるが、おめがシスターズとのコラボでこの曲を選ぶところに現実のピーナッツくんの葛藤の強烈さがヒシヒシと伝わる。

名取さなとのコラボ楽曲「ペパーミントラブ(feat.名取さな)」は淡い内なる両想いについてみずみずしく語っている。本音で語ることができない。口をひらけば「ひねくれ」、「わがまま」、「生意気」といった負の属性が出てしまう。しかし、内なる世界では、他者のことが気になってしょうがない。「KISS(feat.おめがシスターズ)」を踏まえて聴くと、ピーナッツくんの異性に対する重度な葛藤がうかがえる。応援したくなる。

また、『Tele倶楽部』ではピーナッツくん単体の楽曲もあるのだが、VTuberの実態について告発している代物も存在する。それが「SuperChat」だ。VTuberは「好きを仕事にする」理想郷に思える。しかし、周りに浮遊するのは強烈な資本主義、拝金主義の陰りだろう。生放送、ハッシュタグ、BAN対応、混沌とする活動、周囲を見渡せば、同接何人?メンバーシップ、稼ぎに稼いでいるライバーの姿が見える。数字で現れる実力。それについて批判的に語ることで、闇に堕ちることを防ごうとしている。好きなことが数字によって汚染されていく現実を語っている。ピーナッツくんは見かけに反して、鋭い資本主義批判を行っているのだ。音楽はロックもヒップホップも常に、社会批判の側面があり、決して政治と切り離すことができない。音楽の本質を突いており、私がピーナッツくんを推す理由の一つにもなっている。

このように、『FALSE MEMORY SYNDROME』から『Tele倶楽部』を聴くと、よりピーナッツくんの個について知ることができる。「パリピ孔明」におけるKABE太人がモブキャラの姿をしているが、マイクを持つと、自分の物語を鋭い旋律に乗せて刻み込みカリスマ性のオーラをギラつかせる様に近い存在。それがピーナッツくんなのだろう。