『カポネ』黄昏のスカーフェイス

カポネ(2020)
Capone

監督:ジョシュ・トランク
出演:トム・ハーディ、リンダ・カーデリーニ、カイル・マクラクラン、ノエル・フィッシャー、マット・ディロンetc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

トム・ハーディが晩年のアル・カポネを演じた『カポネ』が公開された。海外だとすこぶる評判が悪いらしい。『クロニクル』で輝かしく羽ばたいたものの、リブート版『ファンタスティック・フォー』で大事故を起こしたジョシュ・トランクの陰鬱とした感覚が映画に宿っているらしくTwitterでも監督の精神状態を不安視する声がチラついている。そんな問題作『カポネ』を観ました。

 

『カポネ』あらすじ

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディが、“暗黒街の顔役”と恐れられた伝説のギャング、アル・カポネを演じた伝記映画。「クロニクル」のジョシュ・トランクが自らのアイデアを基に脚本・監督を務め、カポネの知られざる最晩年を新たな視点で描き出す。1940年代。長い服役生活を終えたカポネは、フロリダの大邸宅で家族や友人に囲まれながらひっそりと暮らしていた。かつてのカリスマ性はすっかり失われ、梅毒の影響による認知症が彼をむしばんでいる。一方、FBIのクロフォード捜査官はカポネが仮病を装っていると疑い、1000万ドルとも言われる隠し財産の所在を探るべく執拗な監視を続けていた。カポネの病状は悪化の一途をたどり、現実と悪夢の狭間で奇行を繰り返すようになっていく。共演に「ハウス・ジャック・ビルト」のマット・ディロン、「ダンケルク」のジャック・ロウデン、「ツイン・ピークス」のカイル・マクラクラン。

※映画.comより引用

黄昏のスカーフェイス

アル・カポネといえば、禁酒法時代に酒、売春、賭博で一大組織を作り上げた犯罪王だ。そんなアル・カポネの映画ときいたら、熱いドラマをイメージするだろう。しかしながら、『カポネ』ではひたすら情けないアル•カポネしか描かれていない。歴史に名を刻む人物であっても、情けない引き際はあると語ると同時に、本作ではジョシュ・トランクの陰鬱な精神状態が世界を侵食している。アル・カポネの話なのに、『バートン・フィンク』の世界に紛れ込んだジョシュ・トランク自身が見えてしまっている狂った映画なのだ。

特殊メイクで覆われたトム・ハーディの浮腫んだアル・カポネは、咳とこもった声と、唾の香りがフレームの外側にまで飛散しそうな清潔感ゼロな姿で、ファミリーに介抱されながらなんとか立っていられる状態を維持している。

彼には肉体を制御する体力は残っておらず、ふとした拍子に大便を盛大に漏らしてしまう。もはや晩年なので、森喜朗のように開き直ったかのように横暴に振る舞う。そして、そこに認知症が彼を蝕み、幻覚が見えるようになる。かつて多くの人を血祭りに上げてきた。人の死も見てきた。今までだったら、厚顔無恥を振舞っていられたのだが、肉体だけでなく精神ですらコントロール不能となってきて、突然幻影のパーティシーンで人が大量に殺されたり、ファミリーが食事をしようとすると皿ごと破壊してしまったりする。今まで自分が下した暴力が嘔吐のように内側から吹き出るのだ。

ギャングスター映画のクライマックスのようにカッコ良く死ねる訳ではない。情けなく、制御不能に朽ち果てていく死というものを『スカーフェイス』のラストと対比させて描く。その容赦ない作劇は、人生のどん底の表象として面白いものがあります。

ジョシュ・トランクの遊び心もどこか壊れており、マット・ディロンとトム・ハーディが車を運転している場面は、何故か『ハウス・ジャック・ビルト』の構図を引用していたり、カイル・マクラクランに「私は誰だと思うかい?」と言わせたり小ネタが奇妙でこれまたスパイスとなっています。

まあ、パッヘルベルの「カノン」が弱点な私なので甘いだけかもしれませんが、そこまで悪い映画ではありませんでした。

※映画.comより画像引用