『第三次世界大戦』日雇労働者、ヒトラーになる

第三次世界大戦(2022)
WORLD WAR Ⅲ

監督:ホウマン・セイエディ
出演:モーセン・タナバンデ、マーサ・ヘジャズィ、ネダ・ジェブレイリetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第35回東京国際映画祭コンペティション部門に選出されたイラン映画『第三次世界大戦』。本作はB級映画っぽいタイトルながらもヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門で作品賞と男優賞(モーセン・タナバンデ)を受賞しており、次のアカデミー賞国際長編映画賞イラン代表にも選ばれている。実際に観てみると、アカデミー賞ノミネートは確実であろう作品であった。

『第三次世界大戦』あらすじ

第二次世界大戦を扱った映画のヒトラー役の俳優が降板し、エキストラで参加していた日雇い労働者が代役に抜擢される。奇想天外な設定で描かれる風刺劇。監督は俳優としても活躍するホウマン・セイエディ。

第35回東京国際映画祭サイトより引用

日雇労働者、ヒトラーになる

日雇労働者のShakib(モーセン・タナバンデ)は、毎日トラックの前に集まり仕事を獲得しようとしている。汗水垂らして、泥まみれになりながら日銭を稼いでいる。そんなある日、ホロコースト映画の撮影現場に入る。エキストラとして参加していると、ヒトラー役の男が倒れて降板してしまう。「お前、ちょっと来い!」と呼ばれ、右も左も分からず流されていく彼。いつの間にかヒトラー役に抜擢されてしまう。家も与えられ、人生逆転のチャンスとなる中で、彼の知人であるろう者の女性が現れ助けを求め始める。


日本に来るイラン映画はアスガル・ファルハディー作品のような重厚な会話劇が多いイメージがある。本作は暗い画でありながらも意表を突くイラン映画となっている。そもそもイランでホロコースト映画?というところから惹き込まれるのだが、ろう者の女性が撮影現場に来てからは完全に『パラサイト 半地下の家族』のような展開になってくるのだ。そしてどこに着地するのか分からないジェットコースター映画へと発展していく。

映画を観ている分には面白い。粗雑に扱われるエキストラを通じて数としてしかみられない弱者像を炙り出す展開は興味深い。一方で、ホロコースト映画やろう者といった描写がただ並べられているだけにも感じた。賞レースで勝つための映画ですアピールが強いのは鼻についた。とはいえ、映画としてのレベルはかなり高いので第35回東京国際映画祭コンペティション部門の華といえる作品であろう。

P.S.上記の通りエキストラを粗雑に扱う場面がある映画なので、同祭でウルリヒ・ザイドルの『スパルタ』が選出されていることに疑問を感じている。『スパルタ』はルーマニアの子どもたちが意に反する演技をさせられたと抗議をしていて揉めている作品だ。親には説明したと言及するザイドル監督。事実関係は今後明らかになるとは思うし、恐らくザイドル監督の説明を聞いた上で上映に踏み切ったのだと思うが、『第三次世界大戦』や『コンビニエンスストア』、『R.M.N.』といった労働搾取の映画が多数選出されている今回に関して、いくらザイドル側の説明が正当だとしても上映しない方がいいのではと思ってしまう。