【CPH:DOX2022】『ABYSS』一万もの連想ゲームの先で僕は物語を見た

ABYSS(2022)

監督:Google’s Image Recognition AI, Jeppe Lange

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

CPH:DOX2022オンラインにて配信された短編映画『ABYSS』を観た。本作はAIに類似の画像をGoogleの画像検索を使って10,000枚抽出し繋ぎ合わせ、13分ノンストップで展開してみせた実験映画である。2022年初め頃、AIに打ち込んだ単語、文章に併せた絵を抽出するアプリDreamが話題となった。映画のタイトルや映画監督名を打ち込むとかなりの精度でそれらしきものが浮かび上がるので驚愕した。と同時に、AIや機械学習に興味を持った。それだけに本作も気になって観たのだが、これが凄まじかった。

『ABYSS』概要

10,000 still images are linked together in a mind-expanding, cosmic sensory bombardment as a catalogue of everything the world holds – according to a computer. In ‘Abyss’, video artist Jeppe Lange has used Google’s image search engine to create a montage in which each image resembles the previous one as closely as possible. It’s just the crucial differences that make ‘Abyss’ a constantly mutating, hallucinatory experience before your eyes. Artificial intelligence, in fact, is not interested in scale, emotion or context, but only in abstract patterns, colours and correlations. And then suddenly it’s not very far from nebulae to specks of dust.Please note: The film is not recommended for viewers with epilepsy.
訳:10,000枚の静止画をつなぎ合わせ、世界のあらゆるもののカタログとして、宇宙的な感覚を呼び起こす–コンピュータによれば。ビデオアーティストのイェッペ・ランゲは、Googleの画像検索エンジンを使って、各画像が前の画像に限りなく似ているモンタージュ作品を制作しました。その決定的な違いによって、「Abyss」は絶えず変異し、目の前で幻覚を見るような体験ができるのです。人工知能は実際、スケールや感情や文脈には興味がなく、抽象的なパターンや色や相関関係だけに興味がある。そして突然、星雲から塵の斑点まで、それほど遠くないところにあるのだ。注意:この映画は、てんかんのある方の鑑賞はお勧めしません。

※CPH:DOX2022より引用

一万もの連想ゲームの先で僕は物語を見た

宇宙の画が疾風怒濤、まるで『2001年宇宙の旅』のスターゲイトの如し眼前に飛びかかってくる。やがて、植物の画が連なり、細胞から人間が生み出されていく。やがて、建築物が浮かび上がる。しかし、雲行きが怪しくなってくる。女性の裸、知り、唇が連続して映し出されていくのだ。卑猥な画像が支配を始めていく。それに気づいたのか、AIは再び、無機質、動植物の画を捉え、人間を避けようとするが、挽肉の官能的な画が尾を引く。そこから脱したと思ったら、今度は戦争や破壊の火が映し出される。宗教画を覚え始めても結局、人間の恥部が浮かび上がってしまうのだ。まるでタコピーのようにループしながら、闇堕ちしないルートを模索しているようだ。そして画は再び宇宙へ戻り映画は終わる。


AIが人間の偏見をコピーし、増幅させることは『AIに潜む偏見: 人工知能における公平とは』でも言及されていたが、画像検索の連続体でも同様のことが起こってしまう。つまり人間の欲望を投影してしまうのだ。いずれコンピューターはシンギュラリティを起こすと言われているが、おそらくそれは人間の投影から脱した瞬間だろうと思ったりもしました。

『パララックス・ビュー』の謎のモンタージュシーンが好きな人には刺さる作品であろう。

CPH:DOX関連記事

【CPH:DOX】『MISHA AND THE WOLVES』あの名作はフィクションだった
【CPH:DOX】『PRESIDENT』正義を蹂躙する不正義
【CPH:DOX】『シリア・ドリーム ~ サッカーにかけた未来』青春の蹉跌、翳りは続くよどこまでも
【CPH:DOX】『JUST A MOVEMENT』ゴダール『中国女』をセネガルでリメイク
【CPH:DOX】『TAMING THE GARDEN』巨木は精気を奪いどこへいくの?
【CPH:DOX】『The Gig Is Up』ギグワークにより機械になっていく人間たち
【CPH:DOX】『A MAN AND A CAMERA』許可なく人を撮ってみたww
【CPH:DOX】『The Metamorphosis of Birds』そのノスタル自慰は文学でやった方がいいのでは?
【CPH:DOX】『ボストン市庁舎』ワイズマンが贈る崩壊する民主主義への処方箋
【CPH:DOX】『THE MONOPOLY OF VIOLENCE』「わきまえている」の暴力性
【CPH:DOX】『Bakken』世にも奇妙な世界ふれあい街歩き
【CPH:DOX】『CANNON ARM AND THE ARCADE QUEST』ワンコイン100時間アーケードゲームに挑戦する狂人たち
【CPH:DOX】『Tina』A Fool in Love
【CPH:DOX】『コップ・ムービー』メキシコの警察24時
【CPH:DOX】『GUNDA』ソクーロフに映画のノーベル賞を与えたいと言わせた男による豚観察日記
【CPH:DOX】『Mr. Bachmann and His Class』6年B組バフマン先生