『ペニーズ・フロム・ヘブン』バズビー・バークレーに愛を込めて

ペニーズ・フロム・ヘブン(1981)
PENNIES FROM HEAVEN

監督:ハーバート・ロス
出演:スティーヴ・マーティン、バーナデット・ピータース、クリストファー・ウォーケン、ジェシカ・ハーパー、ナンシー・パーソンズ、M・C・ゲイニーetc

評価:85点

ラ・ラ・ランド』が『巴里のアメリカ人』の御都合主義なエンディングへの批評となっていたこと同様、ダンサー出身監督ハーバート・ロスの『ペニーズ・フロム・ヘブン』もミュージカル映画史におけるハッピーエンド主義への批評となっている。1930年代、世界恐慌の影響で映画業界は豪華絢爛、ハッピーエンドなミュージカル映画が大量に作られた。ミュージカル演出の巨匠バズビー・バークレーもこの時代の演出家である。本作は、バズビー・バークレーを鋭く分析していた。

『ペニーズ・フロム・ヘブン』あらすじ

During the Great Depression, a sheet-music salesman seeks to escape his dreary life through popular music and a love affair with an innocent schoolteacher.
訳:大恐慌の時代、楽譜売りは退屈な生活から抜け出すため、ポピュラー音楽と無垢な教師との恋愛に励む。

IMDbより引用

『ペニーズ・フロム・ヘブン』が凄いのは、昨今の生ぬるいバークレー演出を粉砕するほどの再現度に尽きる。バークレーショットは、ちゃんと人を並べて円形回転させる動きがあるものとなっており、バークレーショットからの切り替えは、上下鏡面にした横方向の踊りへと繋がれる。そして階段から降りながら躍る、奥行きあるものへと発展させる。上から、横から、正面から人の動きを捉えていくところにバークレー映画に対する造詣の深さを感じるのだ。

このような演出の最高峰といえるのはダイナーの場面だろう。吃音の男に食事を奢る場面。ダイナーの壁がなくなり、雨が降る外へ飛び出す吃音の男。ダイナーを外側からとる。静止した時間が流れている。吃音の男は過去を背に雨をコインに変える。ミュージカルならではの突然歌が始まる虚構。そして虚構の中で、陰鬱とした雨をスペクタクルへと変える多幸感に感動した。

他にも、教室が突然白の空間へと変貌し、子どもたちがピアノに変わった机を組み立て、先生がピアノの上を歩きながら踊り狂うといったミュージックビデオで観たくなるほどイカした演出もあったりする。

このような多幸感溢れるバークレー時代の豪華絢爛さが所狭しと並べられているが、話自体はドンドンと最悪な方向へと転がっていき、世界恐慌時代の現実を突きつけてくるあたりもエッジが利いており、これぞミュージカル映画批評作品だと思いました。

とりあえず、ハリウッドには安易なミュージカル演出する前に本作を観てほしいものがあります。

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