【東京国際映画祭】『R.M.N.』経済の悪魔を論理の悪用でハメて焼く

R.M.N.(2022)

監督:クリスティアン・ムンジウ
出演:マリン・グリゴーレ、ジュディス・スターテ、マクリーナ・バルラデアヌetc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第35回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門に出品されたクリスティアン・ムンジウ監督最新作『R.M.N.』を観た。クリスティアン・ムンジウ監督は、人間社会の翳りが法律で禁じられていること、倫理的に問題な行為を誘発する物語を描く傾向がある。最新作は彼の集大成ともいえる作品であり、人類最大の問題である「論理と感情の関係」を扱う作品となっていた。

『R.M.N.』あらすじ

出稼ぎ先のドイツからトランシルバニアの村に戻ってきた男が直面する出来事を通して様々な人種が錯綜するルーマニアの現状をあぶり出す作品。カンヌ映画祭コンペティションで上映。

第35回東京国際映画祭より引用

経済の悪魔を論理の悪用でハメて焼く

マルティン・ハイデッガーは「技術への問い」の中で、自然を制御しエネルギーを蓄える技術の運動が産業革命以降、人間にまで波及し、人間を消費する状況を生み出したと語っている。消費される人は「存在から見放されたもの」と成り果ててしまう。経済活動はまさしく、人間を数として消費続ける運動であり、その傾向から多くの分断を生み出している。

『R.M.N.』はトランシルバニアの村のパン工場を中心に「経済の悪魔」を炙り出す。パン工場に人材が集まらない。なぜならば最低賃金の仕事であり、残業代未払い問題も発生した過去を持つからだ。求人広告を作る際に経営者が有利になるように罠を仕掛ける。「残業代は倍出す」と。これは残業代を限りなく低く設定することでいくらでもコストカットができる経営者有利な条件である。当然ながら人材は来ない。あらゆる場所に張り紙をしても来ないし、そもそも若者は国外へ出稼ぎに行ってしまっているのだ。やがて、このパン工場はスリランカから3人の従業員を雇うことにする。しかし、求人を出してもやって来ない人々から猛反発を受ける。

嫌がらせが収拾つかなくなり、村全体で会議を開く。市民はEUのルールや法律、経営者の論理に対して感情的に噛み付く。一方で、スリランカ人を追い出すためには論理を構築する。多数決という数の事実を突きつけて追い出そうとするのだ。論理は冷たい。時として正論だが、その冷たさ故、自分の心が踏み躙られているように見える。だから感情的になる。だが、感情だけでは人を動かすことができない。だから論理には論理をぶつける。感情を忍ばせながら。つまり、論理とはハイデッガーの理論における存在から見放す技術であり、それは他者を消費することでもある。

その消費のベクトルは経営者と市民で異なる。経営者は、労働力というエネルギーを必要としスリランカ人を存在から見放す。一方、市民はエネルギーの代替としてスリランカ人が起用されることで無用な者となってしまう状況に対して自分の存在を取り戻そうとするために、スリランカ人を踏み台にしながら(=消費しながら)経営者と同じ立場になろうとする。

映画は経済対立の話から歴史の話へと発展していく。これは、ミクロな村の問題をマクロにした時にそれは歴史の問題になることを示唆している。歴史とは強者の真実である。事実を並べて歴史が紡がれるが、そこには解釈が意識的/無意識に入り込む。そして対立の勝者によって歴史が書き換えられていく。集会における言葉のドッヂボールはまさしく、自分にとって都合のよい事実の編み込みを押し付ける行為と言えよう。

では、その対立の本質は何か?

クリスティアン・ムンジウは、一見無関係な挿話に見える野生動物でそれを指し示そうと試みる。

それは「恐怖」である。人間と動物は発声言語を用いて対話することができない。野生動物は対話不能で怖いものだと映画の中では扱われ、その恐怖に対して威嚇するように銃を撃つ。まさしく、対話不能な状況下で自分を守るために暴力を行使する人間心理を象徴しているといえよう。

つまり、「経済の悪魔」、冷たく人間味を感じない論理に蹂躙される者がそれから身を守るために下位の者を消費する。消費する側に回った時、論理の技術が使われる負のスパイラルについて鋭く斬り込んだ作品であった。壮大かつ難題に対する問いを扱っているため2時間で語るには短く、とっ散らかったイメージこそあれども力作であることは間違いないし、日本公開されてほしい作品であった。

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※第35回東京国際映画祭より画像引用