【ブンブンシネマランキング2020】旧作部門1位は『臆病者はひざまずく』

【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位

さて、いよいよ今日をもって2020年が終わる。

今年は緊急事態宣言によって映画館がやっていない時期が長く、「死ぬまでに観たい映画1001本」攻略が捗った。「死ぬまでに観たい映画1001本」は残り300本を切ってくると、気乗りがしない映画、苦手ジャンルが残存してくるのだが、思わぬ出会いがあったりした。苦手なヒッチコック映画の中で『三十九夜』という大傑作を発掘したのだ。ヒッチコックといえば、『サイコ』や『めまい』といった作品ばかり注目されがちだが『アンカット・ダイヤモンド』のような修羅場映画好きには、徹頭徹尾修羅場を描いた『三十九夜』は楽しくてたまらなかった。また、フランク・タシュリン、ジェリー・ルイス映画がいかに傑作なのかを見いだすことが出来なのも収穫であった。もちろん、実験映画群を初め、過酷な作品も多かったのですが、それでも「死ぬまでに観たい映画1001本」を追えば追うほど新作映画を立体的に捉えることができるので実りありました。また、今年は日本未公開も積極的に追うことができ、ヤンチョー・ミクローシュやジョディ・マック、ガーナの謎映画を見つけることができました。

それでは、私の旧作ベストテン行ってみましょう!

【ブンブンシネマランキング2020】新作部門1位は『本気のしるし 劇場版』
【ブンブンシネマランキング2020】ワースト1位は『リベルテ』
チェブンブンブックランキング2020 1位は『映像研には手を出すな!』

※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。

20.NAINSUKH(2010)

監督:アミット・ダッタ
出演:Manish Soni,Nitin Goel,K. Rajesh etc

チェス・コラージュ映画『Wittgenstein Plays Chess With Marcel Duchamp, Or How Not To Do Philosophy』でお馴染みインドの前衛映画監督アミット・ダッタの視覚的快感が詰まった作品。18世紀に活躍した画家NAINSUKHに想いを寄せて、絵画を再現していく過程があまりに美しく言葉を失った。遺跡の陰から武器を持った男が次々と現れてくる場面が特に好きだった。

19.家族日誌(CRONACA FAMILIARE,1962)

監督:ヴァレリオ・ズルリーニ
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、ジャック・ペラン、サルヴォ・ランドーネetc

男が雑然とした部屋で何かをまだかまだかと待っている。電話が鳴る。男は受話器を取る。弟が死んだようだ。男はがらんとした町を歩き帰路に着く。そして、壁に掛かった絵から弟との思い出を反芻する。弟が産まれたせいで母が死んだ。彼はそう睨む。養子に出され、離れ離れになった弟と久しぶりに再開する。彼はロクに勉強せず、不良仲間と卓球をしている。声をかけようかかけまいか悩む男。しかし、弟は彼を認知しており、「アイツがおいらの兄さ!」と突然指を向ける。こうして再開する二人。弟は勘当されたので自宅に引き取ることとなる。貧しさや家族の閉塞感を兄は引き入れ、自由奔放な弟に蔑視の目を向けつつ不器用な愛を注いでいく。夏目漱石や太宰治の小説さながら、重厚な人間の内なる心を描いた作品。嫌いの裏返しとしての愛を女々しく回想していくのだが、町並みを映すカメラワークやドラマティックな再会シーンなど撮影のメリハリが素晴らしく、兄の葛藤が刺さりに刺さる作品でした。

18.フレンチ・コネクション2(French Connection II,1975)

監督:ジョン・フランケンハイマー
出演:ジーン・ハックマン、フェルナンド・レイ、ベルナール・フレッソンetc

1よりも2の方が面白い作品。

本作は、コミュニケーション不全で無能になってしまう様子を辛辣に描いている。フランスに派遣されたポパイが、フランス語を話せないが故に蚊帳の外に追いやられて自暴自棄になる様子が狂ったように描かれる。クズになったポパイは、バーでナンパし、マスターと延々と盃を交わす。そうこうしているうちに敵に捕まり、ヤク中にされてしまう。怒ったポパイは敵のアジトを全力で破壊すべく、ガソリンをまいては暴れ、しまいには車が行き来する道路を全速力で走るのだ。クズ再起映画としてぶっ飛んでいて良いです。

17.アウステルリッツ(Austerlitz,2016)

監督:セルゲイ・ロズニツァ

「観光とは何だろうか?」

セルゲイ・ロズニツァはホロコーストの現場となった元強制収容所を観光するダークツーリズムの姿をナレーションなしで捉えていく。ウジャウジャと湧き出てニヤニヤする。時にガイドの話すら無視する観光客の不気味さに、「消費」としての観光が浮かび上がってくる。そしてガイドの解説が風化しつつある悲劇を表層部へ引きずり出そうとする。観光客とガイド、過去と現在の関係をシャープに見つめた意欲作だった。

16.三十九夜(THE 39 STEPS,1935)

監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ロバート・ドーナット、マデリーン・キャロル、R・マンハイムetc

アルフレッド・ヒッチコック映画が苦手な私もこのハラハラドキドキアクションに胸を奪われた。治安の悪すぎるコント会場から始まり、何故か女スパイ殺人事件に巻き込まれた彼は、右から左から追ってくる謎の存在に怯えながら、自ら答えを追っていくうちに陰謀論者的狂人に化けていく姿はお見事。そして、クライマックス、まるで星新一ショートショートがログインしたようなニヤリとさせられる着地点に燃えました。

15.心と体と(Teströl és lélekröl,2017)

監督:イルディコー・エニェディ
出演:アレクサンドラ・ボルベーイ、ゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキetc

心が不自由な者と体が不自由な者が夢の中で鹿になることで心を通わせる話は、2010年代以降であれば仮想世界の物語にしてしまいがちだが、寓話の視点で描くことで印象的な現代人の孤独の表象となった。透き通った世界の中でじっくりコトコト美しさを紡いでいくイルディコー・エニェディは『私の20世紀』から全く枯れていないことを証明してみせた。

14.D.I.(Divine Intervention-Yadon Illaheya,2002)

監督:エリア・スレイマン
出演:エリア・スレイマン、マナル・ハーデル、ナーエフ・ダヘル、ナジーラ・スレイマンetc

デヴィッド・リンチが審査員長でなければ第55回カンヌ国際映画祭審査員賞を獲れなかっただろうイスラエル・ナザレ出身のエリア・スレイマンが放つシュールなコント集は風刺の正体がわからなくても映画的楽しさに満ち溢れている。サンタクロースを全力で追いかける子どもたち、柿の種を車窓から投げたら戦車に当たってマイケル・ベイ驚愕な爆発を引き起こす。しまいには、突然『マトリックス』かあるいはナイジェリアのZ級映画のように女アサシンが空中から攻撃を仕掛ける場面は爆笑である。

13.トマホーク ガンマンvs食人族(Bone Tomahawk,2015)

監督:S・クレイグ・ザラー
出演:パトリック・ウィルソンリリー・シモンズ カート・ラッセルetc

ブルータル・ジャスティス』で日本でも一気に人気が高まり、次回パク・チャヌクが監督する西部劇の脚本にも抜擢されているS・クレイグ・ザラー過去作。

S・クレイグ・ザラーの映画は厄介なことにポスターや予告編に魅力を感じにくいのだが、実際に観ると圧倒的世界観に興奮する。タランティーノ以上に濃密な会話が繰り出される。「俺はあえて結婚しないんだ」という者に対して「さては童貞かな?」と煽られ一触即発となる場面、ピアノ弾きの料金について尋問する場面と記憶に残る会話が後半のアクションを盛り上げる味付けとなる。食人族はゾッとする程に強い。弱肉強食な西部において死は隣り合わせだ。突然、白い食人族が現れ無残に殺していく。銃で撃っても中々しなない輩に対して、一生懸命銃弾を撃ち込む。弓を破壊して難所を超える部分に映画を観ている興奮がありました。

12.仁義(LE CERCLE ROUGE,1970)

監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
出演:アラン・ドロン、イヴ・モンタン、ジャン・マリア・ヴォロンテ、フランソワ・ペリエetc

ジャン=ピエール・メルヴィルのタメのアクションは今やS・クレイグ・ザラー映画ぐらいでしか観測できない。それだけに魅力に溢れている。ビリヤード台を上から捉えたクールなショットに始まり、強盗する際の手汗にぎる所作と、ジャン=ピエール・メルヴィルのフェチ全開なじっくりじっくりおいしくなれおいしくなれと煮込む映像に舌鼓を打ちました。『サムライ』も好きですが、『仁義』はもっと好きだ。

11.真夏の夜のジャズ4K(JAZZ ON A SUMMER’S DAY,1959)

監督:バート・スターン
出演:ルイ・アームストロング、セロニアス・モンク、チャック・ベリー、アニタ・オディetc

ザ・バニシング-消失-』、『アングスト/不安』と旧作リバイバルが盛り上がりを魅せる最近ですが、今年一番嬉しかったのはカルト映画『真夏の夜のジャズ』の4Kリストア版が公開されたことである。1958年に開催された第5回ニューポート・ジャズ・フェスティバルを捉えたドキュメンタリー。『ストップ・メイキング・センス』や『Tripping with Nils Frahm』とは違い、ライブにおける観客の仕草に重きを置いているのが特徴。今やリスク回避が重要視されて、ライブやイベントは厳重に管理されているが、当時はボートもロープ一本、ライフジャケットも着ずに楽しんでいたりする。「聖者の行進」が闊歩する世界で読書しながら音楽を嗜んだり、寝たりする自由さはコロナ禍でライブにいけない今に刺さる。さらにアニタ・オディが、誰しも退屈そうに聴いているアウェーな会場においてラップやボイスパーカッションの超絶技巧を自信を武器に、披露し続けついに赤ちゃんまでノリノリにさせる姿。ルイ・アームストロングの体重計小噺のカッコ良さと、演者の魅力も詰まっておりサイコーでした。

おまけ1:各部門賞

作品賞:『本気のしるし 劇場版
監督賞:サフディ兄弟(『アンカット・ダイヤモンド』)
主演俳優賞:草彅剛(『ミッドナイトスワン』)
助演俳優賞:宇野祥平(『本気のしるし 劇場版』)
脚本賞:カーロ・ミラベラ=デイヴィス(『SWALLOW/スワロウ』)
脚色賞:三谷伸太朗 深田晃司(『本気のしるし 劇場版』)
編集賞:『TENET テネット
美術賞:『もう終わりにしよう。』
撮影賞:四宮秀俊(『佐々木、イン、マイマイン』)
録音賞:『すずしい木陰
衣裳デザイン賞:リンディ・ヘミングス(『ワンダーウーマン1984』)
作曲賞:ルドウィグ・ゴランソン(『TENET テネット』
歌曲賞:「LOST IN PARADISE feat. AKLO」(『呪術廻戦』エンディング曲※映画関係なくてスマン、アニメのエンディング演出のトリッキーさは今年トップクラスの衝撃だ)
長編アニメーション賞:『クロース
長編ドキュメンタリー賞:『プリズン・サークル
短編アニメーション賞:『14のカノン BWV 1078
短編映画賞:『がんばれいわ!!ロボコン ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!!の巻
短編ドキュメンタリー賞:『真夜中の家族~密着メキシコ民間救急車~

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