【考察】『アンカット・ダイヤモンド』アダムの奇妙な冒険 ゴールデンファービーは砕けない

アンカット・ダイヤモンド(2019)
Uncut Gems

監督:サフディ兄弟
出演:アダム・サンドラー、ラキース・スタンフィールド、ジュリア・フォックスetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アダム・サンドラー最高の演技と評価され、アカデミー賞入りが囁かれていたものの、残念ながら落選してしまったNetflixとA24コラボ映画『アンカット・ダイヤモンド』が遂に配信されました。監督は、東京国際映画祭作品選定プロデューサー矢田部吉彦が発掘した逸材サフディ兄弟。『神様なんかくそくらえ』で第27回東京国際映画祭にて東京グランプリと最優秀監督賞を受賞、『グッド・タイム』では第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、着実に出世している監督です。そんな彼が放った詐欺師東奔西走ものは、映画的面白さに満ち溢れたどうかした作品でした。

【翻訳】『アンカット・ダイヤモンド』配信記念 サフディ兄弟インタビュー

『アンカット・ダイヤモンド』あらすじ


膨れ上がる借金と激しさを増す取り立てに、命さえも危ぶまれる状況の中、口先だけで生きてきたニューヨークの宝石商は、すべてを賭けて一獲千金を狙う。
Netflixより引用

アダムの奇妙な冒険 ゴールデンファービーは砕けない

サフディ兄弟は、ブライアン・デ・パルマやアベル・フェラーラ同様、一見俗な映画に見えるが、その通俗性を極めたことにより監督にしか出せない味を生み出す監督です。ブライアン・デ・パルマの場合、脚本が破綻してでも画になるショットを追い求める作風が特徴的で『パッション』では、何重にもどんでん返しを入れてくるクドさが独特の魅力を醸し出していました。アベル・フェラーラの場合、『天使の復讐』における、チンピラ数名が円陣を組んで主人公を追い詰めていく様子の異様な空気感はカルト映画になりゆる素質を持ち合わせていました。

冒頭、エチオピアの採掘場が映し出される。怪我をした作業員と、それを取り囲むガヤの喧騒は洞窟へ入ると静まり返り、そこでゴロンと原石(=Uncut Gems)が発見される。玉虫色に光り輝く原石にカメラはズームしていき、そのまま量子世界に入り、それはアダム・サンドラー演じるハワードの体内へと繋がっていく。サフディ兄弟は毎回、サイケデリックでインパクト抜群なオープニングを持ってくるが、A24と悪魔合体したことにより、さらに切れ味が増している。

さて、本作は金や貴金属、概念が右から左にドンドンと流れていき、それが絶妙な伏線となってくる作品だ。まさしく、7×7×7のルービックキューブが高速で完成されていくような疾走感と興奮が観客に襲いかかる。ハワードは怪しい貴金属屋を運営する男。彼はハイテンションであることないことベラベラと喋り一貫性もないので、借金まみれ火の車だ。そんな彼は、ちょっと面倒くさいバスケットボール選手KGとの商売に悪戦苦闘、同僚とも意見が合わなくてんやわんや。彼がゴールデンファービーを売りつけようとするのを呆れられてしまう。そんな戦場の中、魚の中に隠して密輸されてきた、エチオピアの原石が届く。競売にかける予定だったのが、うっかりそれをKGに魅せびらかしてしまった為、ハワードの奇妙な冒険は幕を開けてしまう。原石から漂うオーラにメロメロな、KGは「石が俺を呼んでいる」とスピリチュアルな発言をし、「お前のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ!」とジャイアニズムを発揮してテイクアウトしようとするのだ。ハワードはなんとか説得して、人質として彼の指輪をゲットする。しかし、次の場面では何故かハワードはそれを質に入れ始めるのです。そして、翌日になってもKGが原石を返さないことにより、取り立てバトルが勃発するのです。

面白いのは、ハワードは追う人間でありながらも追われる人間だ。常に、電話で催促やアポイントメントが押し寄せてきて、彼が歩けば、右から博士ヘアーの小者が、カメラを見れば、右に左に取り立ておじさん、苦情おじさんが構えている状態なのです。袋の鼠なハワードは言葉巧みに窮鼠猫を噛み逃走する様が毎回壮絶パワープレイ過ぎて段々と笑えてきます。

しかも、ハワードの運命はサフディ兄弟に握られているので、目と鼻の先にKGと原石があっても、簡単には対面させてくれないのです。

そんな地雷を踏みまくり、自転車操業火の車経営のデスロードを疾走するハワードですが、家に帰れば奥さんに頭の上がらない情けない側面を魅せ、息子とワイワイ遊ぶTHEお父さんな側面を魅せる。その一抹のインターミッションが、この映画にメリハリを与えていく。そして、全財産をかけたバスケットボール賭博の手汗にぎるクライマックスへ向かって彼は走り続けるのです。

『グッド・タイム』でも、常に逃げ続けている男の手汗にぎる逃走劇が描かれていたが、さらにパワーアップしたものを魅せてくれました。そして、アダム・サンドラーの常時捲したてる口調で飄々と修羅場を乗り越えていく様に感動を覚えました。

『GOLDMAN v SILVERMAN』

先日、サフディ兄弟が発表した短編映画『GOLDMAN v SILVERMAN』も併せてみると、監督のどうかした魅力が伝わってきます。タイムズスクエアにいる金の銅像男(アダム・サンドラー)と銀の銅像男(ベニー・サフディ※弟)が戦う一発芸映画です。

ジョシュ・サフディ(兄)の2010年代ベスト映画

カイエ・デュ・シネマにてジョシュ・サフディの2010年代ベスト映画が発表されてました。このラインナップを見ると、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『神々のたそがれ』、『パラサイト 半地下の家族』の要素はビンビン感じますね。

ファントム・スレッド(ポール・トーマス・アンダーソン、2018)
女王陛下のお気に入り(ヨルゴス・ランティモス、2018)
・マーガレット※ディレクターズカット(ケネス・ロナーガン、2011)
・恋するリベラーチェ(スティーヴン・ソダーバーグ、2013)
アンダー・ザ・スキン 種の捕食(ジョナサン・グレイザー、2013)
・ウルフ・オブ・ウォールストリート(マーティン・スコセッシ、2013)
・インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(コーエン兄弟、2013)
・アクト・オブ・キリング(ジョシュア・オッペンハイマー、2012)
・神々のたそがれ(アレクセイ・ゲルマン、2013)
・Bitter Lake(アダム・カーティス、2015)
パラサイト 半地下の家族(ポン・ジュノ、2019)

A24 Shopでゴールデンファービー売られていた!

【翻訳】『アンカット・ダイヤモンド』配信記念 サフディ兄弟インタビュー

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