セカンド・チャンス(2022)
2ND CHANCE
監督:ラミン・バーラニ
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『ザ・ホワイトタイガー』、『華氏451(2018)』のラミン・バーラニ監督がCPH:DOXにドキュメンタリー映画を出品していた。防弾チョッキを発明した男の人生を追った作品とのことですが果たして…
※第35回東京国際映画祭映画ワールド・フォーカス部門に選出されました。
『セカンド・チャンス』あらすじ
On the surface, it looks like an all-American success story. After an assault in 1969, Richard Davis invented the bulletproof vest and founded the million-dollar company Second Chance, which saved thousands of lives. And like a true showman, Davis demonstrated his product by shooting himself in the stomach nearly 200 times, and later by directing kitschy action movies about heroic police officers. But his empire may not have been as bulletproof as Davis pretended. With Davis himself in front of the camera, the Sundance hit ‘2nd Chance’ is a disturbing and deeply entertaining story about how the American dream of success ends up being more important than life itself. Prominent director Ramin Bahrani is a formidable storyteller who knows exactly how to cut that cake in his first documentary.
訳:一見すると、アメリカ的なサクセスストーリーのように見える。1969年、リチャード・デイビスは傷害事件をきっかけに防弾チョッキを発明し、100万ドル規模の会社「セカンド・チャンス」を設立、数千人の命を救った。そして、デイビスは、200回近く自分の腹を撃ってその威力を証明し、その後、英雄的な警察官を描いたキッチュなアクション映画を監督し、真のショーマンのように、その製品を証明した。しかし、彼の帝国は、デイビスが言うほど強固なものではなかったかもしれない。デイヴィス自身がカメラの前に立ち、サンダンスでヒットした「2nd Chance」は、成功というアメリカンドリームが人生そのものよりもいかに大切なものになるかを描いた、不穏かつ深いエンターテインメント作品である。著名な監督ラミン・バーラニは、手強いストーリーテラーであり、初のドキュメンタリーでそのケーキの切り方を正確に把握している。
※CPH:DOXサイトより引用
防弾チョッキを生み出した男
リチャード・デイビスは、自分の腹にマグナムをぶちかます。しかし、彼は生きていた。そう彼の作った防弾チョッキがデイビスを守ったのだ。自作の防弾チョッキを自ら試すパフォーマンスで警察や軍に売り込みを行ったこの男リチャード・デイビスは、Second Chance Body Armor Companyを設立し、町の人をほとんど雇う成長を魅せた。おばちゃんが銃を撃ちながら宣伝する強烈さ、華やかなアメリカンドリームが激しく語られていく。銃マニアであるリチャード・デイビスは自作のホームビデオを作ったり、広大な敷地で銃をぶっ放したりして子どもがそのまま大人になってしまったような男であり、彼のフッテージはどれも強烈なものがある。
そんな彼のエピソードの一つにピザの配達中に襲われた話がある。映画はこのエピソードに目をつけた。すると、警察の記録にこのような事件がなかったことが明らかとなる。また、彼が経営するピザ屋が放火される事件があったのだが、その一週間前に保険に加入していたことも突き止める。そこから、リチャード・デイビスのビジネスとしてのハッタリが垣間見えてくる。ビジネス戦略として時に嘘をつき、時に聖人として振る舞い、時に近所の少年を演じていることがわかってくるのである。
そして彼の絶頂と転落が語られてくる。9.11をきっかけに大きな成功を手にした彼はより薄くて強い素材を見つけビジネスを発展させていくのだが、その材質には問題があったのだ。その問題を解決できる能力があるにもかかわらず、彼は止めることなく突き進んでいくのであった。
このアメリカを象徴するような、ビジネスが持つ矛盾した側面の物語はマーティン・スコセッシが映画化したら面白そうな程壮絶な人生譚となっている。恐ろしくも魅惑の物語であった。
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※CPH:DOXより画像引用