『ダムネーション 天罰』果てしない宴会、男は犬をドンびかせる

ダムネーション 天罰(1988)
原題:Kárhozat
英題:Damnation

監督:タル・ベーラ
出演:ガーバー・バロウ、ジャノス・バロウ、Péter Breznyik Berg、Imre Chmelik、ギェルギ・ツセルハルミetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

イメージフォーラムはここ数年、鋭いラインナップを上映している。まさかタル・ベーラの珍しい作品を公開するとは思いもよらなかった。早速観てきたのですが、これまた重厚な作品であった。

『ダムネーション 天罰』あらすじ

「サタンタンゴ」「ニーチェの馬」などで知られるハンガリーの映画作家タル・ベーラが、罪に絡みとられ破滅していく人々をリアルに描いた人間ドラマ。以降ほとんどのタル・ベーラ作品で脚本を担当する作家クラスナホルカイ・ラースローや音楽のビーグ・ミハーイが初めてそろい、独自のスタイルを確立させた記念碑的作品。荒廃した鉱山の町。夫のいる歌手と不倫しているカーレルは彼女の部屋を訪れるが追い返され、行きつけの酒場へ向かう。酒場の店主はカーレルに小包を運ぶ仕事を依頼するが、町を離れたくないカーレルは知り合いに運ばせようと思いつく。歌手の夫から彼女との関係を問い詰められたカーレルは、夫に小包を運ぶ仕事を持ちかける。

映画.comより引用

果てしない宴会、男は犬をドンびかせる

人は、何故長回しに惚れるのだろうか?映画は人生の中のダイジェストである。人生には退屈な瞬間も多いが、それを凝縮したのが映画なのだ。人生はある種長回しで構成されている。その長回しが完璧に構成されていると、自分の人生の退屈さ(=ノイズ)が混ざった長回しと比較し、その差に驚かされ惹き込まれるのだろう。『ダムネーション 天罰』は、タル・ベーラお得意の長回しでも、超絶技巧のテクニックが光る。冒頭、ゴンドラがドライに目的地へ向かっていく様子を捉えていく。段々とカメラが引いていき、窓が見える。そして右にシフトしていくと男の顔がある。これだけで不穏な空気が漂う。女と喧嘩する場面。部屋の外側から覗くように男女の喧嘩を捉える。映っていない場所でガラスが割れる音がする。カメラは横へ移動し、階段にたどり着くと男が階段を降りる。やがて映画は酒場へたどり着く。寂れたバー。寂れた音楽が流れる。雨もザーザー降り注ぐ。それがやがて狂乱の宴にたどり着く。無数の男女がバーで踊り狂う。果てしないダンスの終焉に、がらんと廃墟となったフロアが現れる。男は、狂犬に犬の物真似をしながら迫り狂い、犬をドンびかせる。タル・ベーラがフィルム・ノワールを撮ると、 人生における退屈さの密度を極限まで濃縮することで観る者を魅了する作品となっている。通常、映画における長回しは人生におけるドラマティックな瞬間の持続を捉えるが、本作はその逆を極めているのではと感じた。

言語化しにくい面白さがここにありました。

関連記事

【ネタバレ考察】『サタンタンゴ』タル・ベーラ7時間18分マラソン、私は歩き続ける
※テアトルグループサイトより引用

created by Rinker
紀伊國屋書店