#2021年上半期映画ベスト

2021年も気がつけば半分が過ぎました。皆さんはどんな映画ライフを送っていますでしょうか?私は今年に入って、映画のパンフレットを書いたり、トークショーをしたり、同人誌に寄稿したり、昨年末打ち立てた映画の目標をコンプリートすることができました。今日7/5は私の誕生日、今日から27歳として映画の伝道師の道を爆走していこうと思います。一方で、4~6月は本業のエンジニア職が過酷に過酷を極め、まさしく”Apocalypse Now”となってしまった関係で半ば鬱状態になっていました。一応、一日もブログ記事が絶えたことはないのですが、『花束みたいな恋をした』の麦くんのように廃人になる時期もありました。下半期は精神を破壊されないように本業も頑張ろうと思います。

さて、昨日7/4の夜に映画呑み仲間であるTERRA_sunさん(@terra82mater),寺本郁夫さん(@melancholia2011)、Knights of Odessaさん(@IloveKubrick)と #2021年上半期映画ベスト 発表を行いました。コロナの前は、毎年この時期にはレストランで行っていたのですが、変異株も蔓延していることなのでTwitterのスペースで行うことにしました。昨年から仲良くさせていただいている、日本未公開映画のスペシャリスト五次元アリクイ(@arikuigo)さんも後半から参加し、下半期の期待作についても語ることができました。

というわけで、当記事では軽いアーカイブとして各人のベストおいておきます。CHE BUNBUNのベストには軽い総評と旧作、短編ベストを貼っておきます。

CHE BUNBUNの2021年上半期映画ベスト

【新作】

※画像のタイトル『Mr. Bachmann and his class』はnが二つが正解です。

1.Beginning
2.アメリカン・ユートピア
3.The Painter and the Thief
4.ファーザー
5.Mr. Bachmann and his class
6.あのこは貴族
7.シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
8.Pinocchio
9.ナディア、バタフライ
10.コントラ KONTORA

【旧作】

1.見知らぬ乗客
2.The Road
3.クラッシュ4K無修正版
4.GAMAK GHAR
5.ティングラー/背すじに潜む恐怖
6.ある学生
7.Rey
8.フランケンフッカー
9.ヒッチ・ハイカー
10.花子

【短編】

1.SSHTOORRTY
2.This House Has People In It
3.5 windows eb(is)
4.<—>
5.Wittgenstein Plays Chess with Marcel Duchamp, or How Not to Do Philosophy
6.WVLNT (“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”) 
7.WIND
8.幕あい
9.Listen to the Beat of our Images
10.1DIMENSION

【総評】

2021年はコロナの影響もあってか作品不足を感じました。世界の映画祭作品を漁っていても小粒な作品が多かった。また、緊急事態宣言によりレイトショーがなかった為、なかなか映画館に足を運ぶことができずなかった。なので上半期で308本観ているのですが、正直新作ベストは満足いっていないところがあります。

とはいってもパワフルな作品に出会えたのは確か。劇映画が作りにくい時代な為かドキュメンタリーに鋭利な傑作が多かった印象がある。『アメリカン・ユートピア』では終盤こそスパイク・リー監督が調子に乗ってデイヴィッド・バーン軍団よりも前に出過ぎた演出こそ気になったが、パフォーマーの魅力を最大限引き出すことに注力したカット捌きにより、ライブでも映画でもミュージックビデオでもない存在に昇華させたところはグッと来ました。観ようと思えば配信で観られたのですが、我慢して映画館で観ただけのことがありました。私のお気に入りの映画館である「あつぎのえいがかんkiki」で爆音上映開催が決まったのでまた観たいところだ。

第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ショートリストに上がっていた『The Painter and the Thief』は絵を盗まれた画家が犯人と対話するうちに相互依存関係が生まれていく禍々しさを捉えたドキュメンタリー。現実が虚構を越えてしまっている今だからこそ重要なドキュメンタリーだと思っていて、これが劇映画になったら銀座や渋谷のミニシアターで消費されて忘れ去られてしまうタイプの話が現実としてどこに着地するかわからない状況でカメラに収められているところにドキュメンタリーの優位性を感じました。しかも偶然にも画家が描いている絵が写真のようなリアルなハイパーリアリリズムの絵であることも重要で、この映画自体がハイパーリアリズムのようなものだと示唆しているように見えた。偶然が生み出したトンデモ映画である。さて、『映画大好きポンポさん』においてポンポさんが、超長尺映画を否定し、編集でもって90分を切ることに美学を見出していたが、現実はそう乱暴なことはできない。

マリア・スペト監督の『Mr. Bachmann and his class』ではドイツの移民集まる学校の先生の生き様を3時間半に収めたものだが、200時間のフッテージを編集し最初のバージョンが21時間だったの削りに削りようやく完成させたエピソードがある。これを観ると、バフマン先生が長期にわたって生徒に自分の言葉でモヤモヤを語らせることに注力し、ミクロな世界で国際平和を実現しようとしていることに対する説得力としてこれだけの時間は必要だったと思わずにはいられない。無論、『La Flor』のように14時間観客を拷問にかけた後、40分近いエンドロールを垂れ流す無意味な駄作もありますけどね。

今年はより一層社会に閉塞感が蔓延した。日本では相変わらず『茜色に焼かれる』みたいな不幸の安売り映画が作られている。奇をてらってポジティブに閉塞を描いた『漁港の肉子ちゃん』といった作品もあるが、あれはあれで思想的に危ないものを感じました。社会の閉塞感をいかにして映画に落とし込むのかを最近映画に求めており、それが私のベストにも反映されます。

ジョージアから現れた驚愕の長編デビュー作『Beginning』では、シャンタル・アケルマン『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』をあからさまに引用することで、この映画の独特なクライマックスに力強さが生まれる。教会の火災という惨事から始まる「終わりの始まり」、家父長制による果てなき女性への抑圧。シャンタル・アケルマン時代の女性の抑圧を扱った映画は、女性が反撃する暴力に向かう傾向があった。これは女性だけでなくブラックスプロイテーション映画における黒人が白人を殺す映画と同様、抑圧されるものが無法地帯である映画の中で対象を殺すことができることによるのだが、それはそれで暴力を消費してしまい問題の本質が見えなくなってしまう。『プロミシング・ヤング・ウーマン』が単なるリベンジものに陥っていないこと同様、本作もユニークな演出でもって2020年代の抑圧表象を見出しており素晴らしかった。『ファーザー』では今まで、表層的にしか描けていなかったある病を内部から描くその巧みな編集に惚れ込んだ。『あのこは貴族』では、『パラサイト 半地下の家族』において階段の死角を通じて階級によって見えているようで見えていないものを浮かび上がらせていたのに対し、対等な位置の視線の切り返しによって同じ立場で話しているようで全く異なる次元が見えてしまう姿を捉えていた。なんだかんだ日本も階級社会であることを辛辣に描いており、それが両者ハッピーエンドに見えて華子の肩を持つ残酷な着地でもって強調されていた。なかなか洋画でも観ない大胆さに興奮した。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』も閉塞感ものだろう。新劇場版では大人社会の理不尽さの地獄絵図が広がっていた。逃げる選択肢があるようで、大人たちに仕組まれた道を強制的に歩かされる。そして開き直っても現実は変わらず、遂に碇シンジは心を閉ざしてしまう。一度、心を閉ざすといかなるものも受け付けなくなる。これをジブリタッチの桃源郷を延々と映すことで体現している。そして、絶望のそこから再び救われ、新たな人生を歩み始める。庵野秀明が生み出したシン・神曲ともいえよう地獄めぐりは10年近く待っただけあって感動しました。反対向きに歩く人間が登場する『コントラ KONTORA』は、一発芸と思える内容でありながらも『仮面/ペルソナ』さながら動なる存在と静なる存在の対話を通じて、過去や今を自分の中で消化し、未来に歩こうとする姿を表象している。日本映画でありながら、ユニークなアプローチで描いた意欲作であった。

8位には日本公開への希望を込めて『Pinocchio』を挙げた。とにかくクリーチャーが気持ち悪くて堪らない。チャラいイキり男ピノキオ君の暴力的な旅は私の心を鷲掴みにしました。今、空前のピノキオブームで、今後ギレルモ・デル・トロとロバート・ゼメキスがこのテーマに挑むそうですがそちらも楽しみである。

忘れちゃいけないのが東京五輪映画『ナディア、バタフライ』である。今はなき2020年の東京五輪の水泳種目を描いた作品なのだが、肝心な試合シーンは冒頭の長回しで終わりである。有終の美を飾ることができず引退することとなった水泳選手のふわふわとした感情を描いており、これが新鮮だった。思えば、『ヒノマルソウル』や昨年の『アルプススタンドのはしの方』もそうだが、スポーツ映画は一歩離れたところから撮るのが流行りつつある。勝ち負けの外側にブルーオーシャンがあるらしく、そこが開拓されておりどれも興味深い。観逃してしまったが、『BLUE』もそんな映画な気がします。

というわけで下半期も面白い映画に出会えること祈ります。

TERRA_sunの2021年上半期映画ベスト

1.いとみち
2.彼女来来
3.1秒先の彼女
4.街の上で
5.シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
6.クルエラ
7.聖なる犯罪者
8.あのこは貴族
9.アメリカン・ユートピア
10.ジェントルメン

寺本郁夫さんの2021年上半期映画ベスト

(順不同)
・あのこは貴族
・ハイ・シエラ(1941)
・少年(1969)
・ビーチ・バム まじめに不真面目
・天が許し給うすべて(1955)
・ボディーガード(1948)
・ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット
・アメリカン・ユートピア
・VIDEOPHOBIA
・ザ・フライ(1986)

Knights of Odessaさんの2021年上半期映画ベスト

1.Bad Luck Banging or Loony Porn
2.Malmkrog
3.Beginning
4.Preparations to Be Together for an Unknown Period of Time
5.Come Here
6.プロミシング・ヤング・ウーマン
7.The Exit of the Trains
8.Shiva Baby
9.樹海村
10.The Killing of Two Lovers

詳細評は彼のnote記事にて!

五次元アリクイさんの #ミタイ映画

五次元アリクイさんから3本のユニークな謎映画を紹介していただきました。

SEE FOR ME(Randall Okita) 

※nsi-canadaより画像引用

新時代の『ドント・ブリーズ』だろうか?盲目のスキーヤーの家に強盗が入り、FPSゲームをプレイする退役軍人と共同で侵入者から身を守るという内容。あらすじを読んだだけでも面白そうですね。これは下半期狙いたいところ。日本公開しそうな気もしますね。

BLIND AMBITION(Warwick Ross&Rob Coe)

ワイン業界の『クール・ランニング』とも言える本作はワインに魅せられたジンバブエ人たちが、世界ブラインドワインテイスティング選手権に参加するドキュメンタリー。ジンバブエドキュメンタリーといえば、先日『President』を観て震えあがりましたが、本作も面白そうだ。ちなみにジンバブエは、ワインベルトから外れており、ワインとはあまり縁のない国ということもあり『クール・ランニング』を彷彿させますね。

THE LOST LEONARDO(Andreas Koefoed)

レオナルド・ダ・ヴィンチの謎の絵画が出土し、一夜にして世界最高額の絵画になるが果たして、これはホンモノだろうか?近年、アート界隈のドキュメンタリーが増えている。絵画が株価のように変動する資本主義の歪んだ特性を鋭く切り込んでくれそうな予感します。

 

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