【アカデミー賞】『Quo vadis, Aida?』我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか

Quo vadis, Aida?(2020)

監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
出演:ヨハン・ヘルデンベルグ、レイモンド・ティリー、ボリス・イサコヴィッチ、Emir Hadzihafizbegovic、Teun Luijkx etc

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第93回アカデミー賞国際長編映画賞に『ノー・マンズ・ランド』以来19年ぶりにボスニア・ヘルツェゴヴィナ映画がノミネートされた。ボスニア・ヘルツェゴヴィナといえば、「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字を持つ、1つの国家」の複雑さから激しい民族対立を引き起こしユーゴスラヴィアから独立した国である。独立時には、クロアチアと激しく対立し、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が勃発。その爪痕は世界遺産であるスタリ・モスト(モスタル旧市街の古い橋の地区)を始め、ボスニア・ヘルツェゴビナ随所に今も残されている。

さて、そんな国から紛争時の混沌を描いた骨太映画が誕生し、アカデミー賞を賑わせている。タイトルは、新約聖書から来ている。キリスト教を布教するペトロがネロ帝から迫害され、逃げようとする中で一度磔となって死んだはずのイエス・キリストが現れた時に彼が語った言葉「Quo vadis, Domine(主よ、どこに行かれるのですか)?」である。これに対して、イエス・キリストは「君が逃げるのなら、私はもう一度磔になるべくローマへ向かう」と語る。これが本作の軸となっているのだ。

とはいっても決して小難しい作品ではなく、画による魅力でもってボスニア・ヘルツェゴビナ問題に対する関心を促す入門書に仕上がっていました。

『Quo vadis, Aida?』あらすじ

Aida is a translator for the UN in the small town of Srebrenica. When the Serbian army takes over the town, her family is among the thousands of citizens looking for shelter in the UN camp.
訳:アイダは、スレブレニツァという小さな町で国連の通訳をしています。セルビア軍が町を占領したとき、彼女の家族は国連のキャンプに避難しようとする何千人もの市民の中にいました。

※imdbより引用

我々はどこから来たのか
我々は何者か
我々はどこへ行くのか

スルプスカ共和国軍がスレブレニツァに侵攻する。市長(Raymond Thiry)は助けを求めて国連が運営する仮設キャンプにやってきて、Karremans大佐(ヨハン・ヘルデンベルグ)と話をするのだが、大佐はどうも頼りない。人々の危機に対して、大した力になってくれない状況に市長は苛立ちを隠せない。そうこうしているうちに、スレブレニツァは戦場となり数千人の人々が国連キャンプを目指してやってくる。だが、キャンプ場のキャパは足りない。国連軍は、機械的に門を閉鎖して、見渡す限り人、人、人の群がキャンプ周辺を覆い尽くしてしまう。

一方で、内部で通訳をするAida(Jasna Djuricic)は家族がキャンプの外に取り残されていることを知る。なんとか中に入れようとするのだが、同僚に止められる。群衆の目の前で一人だけ入れたら現場が混乱するからだ。既にキャンプ内がメガ密となっており、これ以上人を入れることができないのだ。

Aidaは国連の最前線として働きながらも所詮は人間である。極限状態になった際に人助けの優先度は自分>家族>他人となる。交渉力を駆使してなんとか中に入れようとするあたりに人間味が出てくる。同様にKarremans大佐も大佐でありながら、ハリウッド映画のような勇敢さはなく、中間管理職としての板挟みに苦しめられるのだ。

そこへ、将軍Ratko Mladic(ボリス・イサコヴィッチ)がやってくる。入り口の国連軍はあまりの暴力的な彼に屁っ放り腰となる。「おい、入れろ!」「ムスリム兵はおるか?」と圧をかけまくって中に侵入されてしまう。中間管理職、自分の意思で動けなくなったKarremans大佐はRatko Mladicに煽られまくって、段々と安全圏がなくなっていくのだ。

本作は『ノー・マンズ・ランド』同様、国際紛争を助けてくれる国連軍であっても複雑怪奇に絡まった政治によって二進も三進もいかなくなり、無能と化す様子を批判している。そして、個人による勝手な行動が一番影響力を持っている様子を皮肉っている。

結局、国際平和を掲げている者は「何者」でもなく、エゴで動くことによって「何者」かになれる。「何者」になった時ほど人間は強くなれるのだ。

だからこそ、Aidaがどこへいくのか?そこに力強いものを感じました。

『Quo vadis, Aida?』はどうやら日本配給がついているらしく、そのうち公開されるそうですよ。

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