ジャッリカットゥ 牛の怒り(2019)
Jallikattu
監督:リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ
出演:アントニー・バーギーズ、Chemban Vinod Jose、Sabumon Abdusamad、Santhy Balachandran、Jaffer Idukki etc
評価:60点
2021年は踊らないインド映画を研究対象にしている。友人から、「第30回アジアフォーカス・福岡国際映画祭に面白そうな踊らないインド映画があるよ。」とオススメされたのが『ジャッリカットゥ 牛の怒り』であった。その時は日本公開されなさそうなアクション映画だなぐらいにしか思っていなかったのですが、あのイメージフォーラムことダゲレオ出版配給で日本公開が決まりました。予告編を観ただけで戦慄すら覚える魔界。海外旅行ができない今だからこそ、楽しめるのではと私はこの魔界に足を踏み入れました。
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』あらすじ
怒り狂う暴走牛と1000人の村人たちが繰り広げる戦いを描いたインド発のパニックスリラー。南インド、ケーララ州のジャングルにある村。冴えない肉屋の男アントニが1頭の水牛を屠ろうとすると、命の危機を察した牛は怒り狂って脱走する。肉屋に群がっていた人々は慌てて追いすがるが全く手に負えず、暴れ牛は村の商店を破壊し、タピオカ畑を踏み荒らす。恋心を寄せるソフィに愛想を尽かされたアントニは、牛を捕まえてソフィに見直してもらおうと奔走。村中がパニックに陥る中、密売の罪で村を追放された荒くれ者クッタッチャンが呼び戻されるが、アントニとクッタッチャンはかつてソフィを巡っていがみあった仲だった。牛追い騒動は、いつしか人間同士の醜い争いへと展開していく。
牛の怒りというよりかは牛のドン引きだよね
かつてあっただろうか?
カレー用の水牛が逃走したことにブチギレ、村人総勢1,000人が血眼になりながら追い回す映画が!本作はインドのカルト映画リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ手により、一癖も二癖もある作品となっている。予告編の「徒歩版マッドマックス」のノリで観ると肩透かしを食らうだろう。イメージとしては『デンデラ』の方がまだ近い。
冒頭、『バクラウ 地図から消された村』の海外版トレーラーさながら、タン…タン…といった周期的な音に合わせて村の生活が映し出される。そこには、肉をさばき、貪欲に群がる人々が映し出される。気持ち悪い大量の虫の画が交差することによって、本作が路傍の虫の喧騒のように蠢く人々の本能的暴力を捉えることを宣言している。
そして、賽は投げられた。
一頭の牛が逃走する。パーティを控えた男は、家族に内緒で酒をちびちび飲みながら、パーティの目玉である水牛カレーの話をしていると、外が騒がしくなる。どうやら水牛が逃走したらしく、人々が血眼になって探しているらしい。オイラの水牛が!と怒り狂った彼はその混沌に没入する。
村人は皆イキっているが、いざ水牛を前にすると一目散で逃げていく。野次馬根性の輩が多く、ファーストペンギンになろうとして、漁夫の利を狙おうとする奴しかいない。キレやすく怠け者で、物事を大きくしがちな彼らのおぞましいほどの暴力が、いつしか水牛そっちのけで展開される。ある種、水牛はマクガフィンであり、水牛を追いかける中で人間の狡猾さを暴き出すのだ。故に、映画の大半は、少し水牛を追って、人間同士の諍いに時間をかけるの反復で構成されており、91分と短い映画ながら途中で飽きてしまう。
一方で、死者が出ているのではと思うほどに荒々しいカメラワークと、本能が生み出す見たこともないような場面の連続には空いた口が塞がらない。例えば、用心棒として現れた男がいる。彼の周りには取り巻きがおり、リオのカーニバルのように村を闊歩する。すると、彼は突如キレ始めて、ヤカンを破壊し、その取っ手をナイフでぶったぎって銃弾を作り始めるのだ。例え、散弾銃だとしてもあまりに雑な銃弾っぷりに驚かされる。こうしたサプライズが全編所狭しと続いているのです。
正直勢い任せだし、編集の手数が少な過ぎて期待外れな作品ですが、リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリのパワフルさにはノックアウトされた。彼の最新作『Churuli』がタイムループものだと聞いて楽しみである。
P.S.本作における水牛パーティがぶち壊されてムカつく展開って、どこかサタジット・レイの『音楽ホール』に通じるものがあります。インドはお葬式破産があるほど、何かにつけて祭りを開く。その文化における虚栄心を『音楽ホール』は描いていて、やたらと自宅コンサートを開く者の承認欲求と孤独の関係性は『ジャッリカットゥ 牛の怒り』の彼に引き継がれていると考えられます。黒澤明の『乱』、『影武者』に影響されているレベルであり、単に思いつきで映画を作っているわけではないので、割と本当に影響受けているかもしれませんね。
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※imdbより画像引用