【Netflix】『隔たる世界の2人』The Fire Next Time

隔たる世界の2人(2020)
Two Distant Strangers

監督:トレイボン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー
出演:ジョーイ・バッドアス、アンドリュー・ハワード、Zaria Simone、Mona Sishodia、キャメロン・アーリーetc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第93回アカデミー賞で短編実写映画賞にノミネートされている『隔たる世界の2人』がNetflixで配信されていたので観ました。本作はアメリカ社会において黒人がおかれている状況をタイムループものに当てはめて描いた作品。Twitterでの評判も高かったので観たのですが、これが実にスマートでした。

尚、ネタバレ記事です。

『隔たる世界の2人』あらすじ

タイムループに閉じ込められた男が、愛犬が待つ自宅に戻る途中で、警官ともめて殺される恐怖を何度も繰り返す。アカデミー賞最優秀短編映画賞ノミネート作品。

Netflixより引用

The Fire Next Time

タイムループものというと大抵は思いがけず死ぬ、あるいは銃などの凶器で死ぬところから始まる。しかしながら、本作では警察官の手により窒息死させられるところから始まる。女性との一夜が明け、彼は外へ出る。そんな彼がタバコを吸っていると白人男性とぶつかってしまう。すると警察官が現れ尋問が始まる。拒否権があるにもかかわらず横暴な警官と口論になり、やがて彼に取り押さえられる中で窒息死してしまうのだ。

ジャンル映画であるタイムループものを「窒息死」という変化球から始めるところから魅力に溢れているのだが、本作は30分無駄なく、死のパターンを連ねていく。事前に白人男性との衝突を避けてみたり、家に引きこもってみたり、全力で逃げてみたりと観客が想像しそうなことを丁寧に処理していく。マンネリ化するタイミングで、警察官の銃声を饒舌に畳み掛けることで死を積み重ねていく。

そして、主人公は警察官と対話する選択肢を取る。逃げたり、攻撃したりするのではなく、対話を通じて差別を議論していくのだ。対話をする中で、警察官は幼少期のいじめから逃れるように力を手にしたことが分かってくる。そして完全に意見が一致することはないのだが、互いを尊重するようになっていく。

ここで終わるのかと思いきやそうではない。

2000年代にかけて、世界は一つになろうとしてきた。しかしながら、2010年代後半からそれに限界が見え始めて世界は分断されていった。アメリカでは黒人と白人の暴力対暴力の構図が延々と繰り返されている。

警察は演技をしていたのだ。面従腹背だったのだ。

そして、彼は再び殺されてしまう。

だが、自由を手にするには何度殺されようとも立ち上がらないといけないのだ。

数年前にChildish Gambinoの「This Is America」のMVが評価されグラミー賞最優秀レコード賞を受賞したが、それに近い表象の力強さを感じる。唐突な暴力に苦しんでいる者の叫びを、巧みなカメラワークで彩り、観る者を虜にしていく。これこそが私が評価したい社会派映画だ。日本映画によくありがちな、薄暗い色彩、何かにつけて安易に叫んだり走ったりする。映画は「画」の芸術故にカットや演出でそういった問題を魅せてほしいのだ。

本作は、冒頭に窒息死を配置しジャンル映画の解体を行ってしまっている上、次のループで銃殺が選ばれてしまっていることに弱さを感じルところもある。凶器による死を封じる制約プレイの印象が強すぎるので、最初は銃殺、2巡目は窒息死にした方が良かった気もするが、第93回アカデミー賞短編実写映画賞は本作でキマりでしょう。

※Netflixより画像

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