【Netflixネタバレ考察】『ラブ&モンスターズ』ジャンル映画に誠実な男マイケル・マシューズに注目

ラブ&モンスターズ(2020)
Love and Monsters

監督:マイケル・マシューズ
出演:ディラン・オブライエン、マイケル・ルーカー、ジェシカ・ヘンウィックエレン・ホルマン、メラニー・ザネッティetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第93回アカデミー賞視覚効果賞(マット・スローン、ジュヌビエーブ・カマイユリ、マット・エブリット、ブライアン・コックス)にノミネートされている『ラブ&モンスター』がNetflixで配信されたので観ました。

2010年代以降のハリウッド大作は新鋭監督を青田買いして育成する運動が盛んだ。モンスターに蹂躙される世界における一般人をリアル志向で描いた『モンスターズ/地球外生命体』のギャレス・エドワーズはその才能を買われて、『GODZILLA ゴジラ』、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』監督に抜擢された。アダム・ウィンガード監督は、リメイク版『ブレア・ウィッチ』、『Death Note/デスノート』、『ゴジラvsコング』と出世街道を突き進んでいる。ディズニーは『ノマドランド』のクロエ・ジャオに『エターナルズ』を撮らせ、批評家レベルでもまだそこまで注目されていないエジプトの凄腕監督モハメド・ディアブにドラマシリーズ『ムーンナイト』を手がけるチャンスを与えた。さて、このムーブメントに新たな萌芽を観測した。マイケル・マシューズである。南アフリカ・ダーバン出身の彼はケープタウンにある美学校City Varsityで映画製作を学ぶ。その後、ショーン・ドラモンドと共にBe Phat Motel Film Companyを設立する。

初長編『ファイブ・ウォリアーズ』はブルキナファソで開催されるアフリカ最大の映画祭FESPACOコンペティション部門に選出された他、アフリカ映画アカデミー賞にて最優秀作品賞、最優秀アフリカ言語映画賞、第1作監督賞、最優秀撮影賞、最優秀美術賞の5冠に輝いた。本作はアパルトヘイトの邪悪さ、白人の黒人支配に対する批判をマカロニウエスタンのタッチで描くことで、娯楽性と白人批判を共存させる表現技法を確立させているバランスが取れた作品に仕上がっている。そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』のオマージュを銃ではなくパチンコで行う独創性が魅力的な作品である。この功績が功を奏したのか、第2作目にしてパラマウント/Netflix配給作品『ラブ&モンスター』を手がけた。まさしく、シンデレラストーリーだ。ニール・ブロムカンプを感じさせる大出世ぶりである。そんな本作を観ました。できるだけ何も入れずに観てほしいのでネタバレ記事とします。

『ラブ&モンスター』あらすじ

モンスターと化した生物に世界が支配されてから7年。元恋人との再会を決意した頼りない青年ジョエルは、安全な地下での暮らしを捨て、危険な外の世界を突き進む。

Netflixより引用

モンスターは案外マヌケなものさ

アルマゲドンのように迫り来る巨大隕石を破壊したら、その影響で地球に化学反応が発生し、次々と動物がモンスター化していった。人類は蹂躙され続け、コロニーと呼ばれる集落で細々と暮らしていた。

ありがちなオープニングから幕を開ける。主人公ジョエルは、モンスターから逃げる過程で恋人エイミーと離れ離れになってしまう。コロニーの中では大半の人がカップルとなっており、事実上独り身のジョエルは悶々としながらもエイミーに対して7年間も一途を貫き通していた。そんな彼は、両親を目の前でモンスターに踏み潰されたトラウマから、時折フリーズしてしまう後遺症を患っており、仲間と一緒に外の世界で活躍したいと思っているが中々叶わないでいた。

自分は必要とされているのか?

そういった息苦しさが、エイミーのいるコロニーへの旅へと導く。独り旅に出ることになった男の王道地獄旅が描かれていく。

本作が素晴らしいのはジャンル映画として真摯なところにある。変に気取って難解にしようとせず、まっすぐにモンスターとの対峙→突破、出会いと別れを描いていく。そしてモンスター造形とアクションの手数の多さで観客を世界へと引き摺り込む。例えば、ムカデのようなモンスターと対峙する場面。アヒルの遊具の下に犬が隠れる。犬を救出しようとしゃがむと、棘のようなものがゆっくりと地面から生えていき、段々とモンスターの巨大さが分かっていく。このモンスターがジョエルを吹き飛ばすと、彼の目線に切り替わる。アヒルの遊具に隠れた犬だったが、遊具が締め付けられ、ごろんと遊具が外され袋の鼠となる。それを空からのショットで捉え断末魔を強調した状態で、ジョエルの反撃を開始する。無駄なく魅力を紡ぐ姿に職人を感じた。まさしく、『ファイブ・ウォリアーズ』における『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』オマージュの精密さに匹敵する。

そしてモンスターがどれもキモさとマヌケさの狭間にある存在として描かれている。地球上の昆虫や爬虫類がキモさとマヌケさを持っているように、どんなに巨大化しても恐怖だけでなく独特なキモさとマヌケさがあるルールを徹底して適用しているのだ。それは巨大ガエルの、不器用な舌捌きと鈍臭い動きに始まりクライマックスまで持続する。そして何を隠そう、生々しい巨大カニとの死闘はモンスター映画史上トップクラスのアクションといえる。モンスターハンターのダイミョウザザミを彷彿とさせるカニが、海賊軍団の電撃によってエイミーがいるコロニーの住人に襲いかかる。マヌケ顔で咆哮しながら突き進むカニに対して、槍をテコの原理で刺して投げ倒すジョエルの必死さ。電撃ショックで困惑しながら暴れるカニに対して、目でコミュニケーションを取りやがて海賊を返り討ちにする場面は不器用なもの同士に芽生える熱い友情の表象であり、感動しました。

これは『テラフォーマーズ』や『進撃の巨人』ハリウッド実写版を手がけるしかないのでは?マイケル・マシューズの今後の活躍に期待である。

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※Netflixより画像引用