もくじ
- 0.1 10.映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!
- 0.2 9.Mr.Bachmann and His Class
- 0.3 8.The Card Counter
- 0.4 7.Exile(Exil)
- 0.5 6.ディア・エヴァン・ハンセン(Dear Evan Hansen)
- 0.6 5.仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)(The Works and Days (of Tayoko Shiojiri in the Shiotani Basin))
- 0.7 4.ドライブ・マイ・カー(Drive My Car)
- 0.8 3.洞窟(Il buco/The Hole)
- 0.9 2.アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ(Bad Luck Banging or Loony Porn/Babardeală cu bucluc sau porno balamuc)
- 0.10 1.ある詩人(Poet/Akyn)
- 1 最後に…
- 2 チェブンブンシネマランキング2020年新作部門
- 3 おまけ:短編ベスト
10.映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!
出演:花田ゆういちろう、小野あつこ、福尾誠、秋元杏月、横山だいすけ、小林よしひさ、小池徹平、吉田仁美、川島得愛、冨田泰代etc個人的に子ども映画があまりにも軽視されていると考えている。映画評論家ですらほとんど子ども映画を分析している人はいない。しかし、実際に観ているとアート映画監督はいろいろこねくり回して編み出しドヤ顔で観客に提示する演出をさも当たり前かのようにやってみせている。子どもは残酷で少しでもつまらなければ映画から去ってしまう。1分1秒が勝負である。故に洗練されているのだ。さて、シリーズ3作目『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』だが、コロナ禍でコール&レスポンス演出ができなくなった。その制約に翻弄されることなく、アップテンポな2曲をブーストとして取り入れる。2曲目は親もよく知っている「アイアイ」だったりする。そしてアニメの世界の住人がどこでもドアのような装置を使って、歌のおにいさん/おねえさんたちの前に現れる。アニメと実写の融合を自然に魅せており、そこから同時多発異世界転生が勃発する。そこでは多種多様の世界観が垣間見える。『トロン』のような電子空間では、右から左から迫りくるオブジェクトを回避するのだが、フレームの外側や奥行きを使い込んでいる。キッザニアを舞台にした場所では、擬似長回しによる違和感探しゲームが始まる。また子ども映画では、哲学的な話題も多い。今回のケースでは小池徹平演じる門番が2択クイズを出題する。「犬と猫どっちが好き?」と。無意味な質問に対し、「そういう決まりだから」と突っぱねる小池徹平。社会人になると対峙するであろう、トップダウンで降りてくる無意味をそのまま押し通してしまう人間に対し、どのように突破するかをこの映画ではやってのけてみせるのだ。子どもだからと侮らない。大人が観ても驚きに満ちた傑作であった。
・【ネタバレ考察】『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』ユーザはマニュアルを読まない
9.Mr.Bachmann and His Class
監督:マリア・スペト第71回ベルリン国際映画祭で審査員賞を受賞した3時間半にも及ぶドキュメンタリー。元々は21時間あったらしいと聞いて驚愕する一方で納得もした。学校の教育現場では『パリ20区、僕たちのクラス』が教材として使われるのだが、2020年代はこの映画こそが教科書であろう。6年B組バフマン先生は、AC/DCの服を着てだらんとしながら授業をしている。第一印象は悪い。歌の発表会では生徒差し置いて先生がヴォーカルをやったりするので不信感がある。しかし、移民が多いクラスにおいてコミュニケーションを大事にし、何故そう思ったのか?をひたすら問う様子は議論しない日本が学ばなければいけない部分といえよう。また、バフマン先生の間合いが割と近い、そこまでセンシティブな話題に踏み込んでいいのかとハラハラドキドキさせられ、ある種のサスペンスになっているのも特徴であろう。日本公開猛烈に希望します。
・【CPH:DOX】『Mr. Bachmann and His Class』6年B組バフマン先生
8.The Card Counter
監督:ポール・シュレイダー出演:ウィレム・デフォー、オスカー・アイザック、タイ・シェリダン、ティファニー・ハディッシュ、エカテリーナ・ベイカーetc
ハンガリーのことわざに「逃げるは恥だが役に立つ」というのがある。恥ずかしい逃げ方だったとしても生き抜くことが大切さという意味が込められているのだが、ポール・シュレイダーはまさかの賭博映画でそれをやってのけた。カジノ会場にて脳内で計算して確実に稼ぐ男。しかし、5万円ぐらい稼いだらあっさりとゲームから降りる。目立たず、潮時になったら逃げるを繰り返している男を官能的なショットで捉える。明らかにファム・ファタール的存在が現れてもとにかく、逃げて逃げて逃げまくる。盛り上がるであろう大きな試合も、途中で逃げてしまう。しかしそれでもフィルム・ノワール特有の闇への引力は強く、思わぬところで対峙の選択を取るのだ。前作『魂のゆくえ』ではロベール・ブレッソン『田舎司祭の日記』を露骨にリメイクしていたが、本作ではブレッソンの禁欲的なショットを起用し、世にも奇妙な戦わないカジノ映画を生み出した。これも映画館で観たいところ。
・『THE CARD COUNTER』男は運命を数える、再び暴力のカードを引き当てぬように
7.Exile(Exil)
監督:Visar Morina出演:ミシェル・マティチェヴィッチ、サンドラ・フラー、ライナー・ボック、トーマス・ムラーツ、Flonja Kodheli etc
済藤鉄腸さんが昨年頃、コソボ映画が熱いと語っていた。それがいよいよ潮流に乗り始め、第34回東京国際映画祭ではコソボ映画『ヴェラは海の夢を見る』が最高賞を受賞。第94回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストには『HIVE』が選出されている。個人的には『EXILE』を推したい。今や日本でもパワハラセクハラが告発され、糾弾されているが、その中には被害を訴えたり、問題に対して声を荒げている者が別の場所で加害者になってしまっているケースがある。被害者が別の場所で加害者になっているケースにも向き合って欲しいと思っているのだが、それを鋭く斬り込んだのが『EXILE』である。コソボ移民の男が職場でハラスメントに遭う。会議室の変更を教えてくれなかったり、素材を全然渡してくれなかったり、会議では「我々は団結しなければならない、君の出身はどこかね?えっクロアチアだっけ?」と露骨に出身国を間違えられたりする。精神的に追い詰められると多角的に物事が見られなくなる。それにより、嘲笑する警察官に当たり散らしたり、行き場のない暴力が家族に向けられたりする。無意識に暴力が外部に流れていくのだ。会議室の対岸がボケている空間、オレンジ色に光差込むも居心地が悪い通路、燃えるベビーカーといった悪夢のような閉塞感が暴力の連鎖を物語っているのだ。
・『EXILE』会社でのハラスメントは家庭にまで持ち込まれ…
6.ディア・エヴァン・ハンセン(Dear Evan Hansen)
監督:スティーヴン・チョボスキー出演:ベン・プラット、エイミー・アダムス、ジュリアン・ムーア、ケイトリン・デヴァー、アマンドラ・ステンバーグ、ニック・ドダニ、ダニー・ピノ、コルトン・ライアン、アイザック・パウエル、エイブリー・ベダーマンetc
ミュージカルは明るいものというイメージがあるせいかあまり評判がよくない本作ですが、グロテスクな群衆心理をとらえた傑作であり、今年最高の修羅場映画ともいえる。精神に病を抱える者に訪れた、嫌な不良生徒の死。彼の家族の圧力に負けて「友達だった」ことにした瞬間、右から左から同情の眼差しが向けられ持ち上げられていく。しまいにはクラウドファンディングが始まり、虚構の思い出話が具現化しそうになってしまう。主人公がクソだという声もチラホラ聞こえるが、個人的に違うと考えている。群衆が本人ではなく、本人から引き出す自分が見たい真実にしか興味を持たないことによる弊害がここで描かれており、SNSを通じそれが拡散していく恐怖を封じ込めていた。またミュージカル映画にもかかわらず、安易な万華鏡マスゲーム演出(バークレーショット)に頼らず、SNSの画面を無数に集めて不良少年の肖像を生み出す別ベクトルからのバークレー演出引用をしていたところに感心し、全力で応援しようと思った。
・【ネタバレ考察】『ディア・エヴァン・ハンセン』ウォールフラワーの心臓を抉り取れ!
5.仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)(The Works and Days (of Tayoko Shiojiri in the Shiotani Basin))
監督:アンダース・エドストローム、C・W・ウィンター出演:タヨコ・シオジリ、ヒロハル・シカタ、加瀬亮、Mai Edström、Kaoru Iwahana、Jun Tsunoda、本木雅弘etc
第21回東京フィルメックスにて平日アテネフランセで上映されたあの8時間映画。正直、配給のシマフィルムが扱える映画なのかはかなり疑問である。何故、そう話したかというと、視聴環境によって評価が180度変わるタイプの作品であり、人によってはオールタイムワーストになる危険性を帯びている。本作は、京都の田舎町の生活を淡々と追った作品。監督のアンダース・エドストロームが写真家だけに、どのショットも鋭く、特に介護ベッドに手を伸ばそうとする塩尻たよこの構図が素晴らしい。小津安二郎ばりに和室空間の分割を行う。僅かに光差し込むところに彼女を配置し、まるで聖母マリアのような構図が生まれていくところが実に美しいのだ。そして、本作最大の特徴である日本人でも全く聞き取れないセリフは、我々が外国に留学して、話の詳細こそわからないが、空気感でどんな話かは分かる感覚の表象と捉えることができる。その奇妙な音の演出になれると、終始感動する作品に見えることでしょう。
・『仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)』8時間の曖昧な帰省
4.ドライブ・マイ・カー(Drive My Car)
監督:濱口竜介出演:西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいかetc
村上春樹のルッキズムや男らしさ全開な原作をここまで脚色できるのかと感動した。初手を「シェヘラザード」から始めることで、囚われの女が、囚われから脱出する話であることを物語、そこから多言語演劇を通じて、人間の心の中まで通じた対話とは何かを模索する。それを彩るように四宮秀俊のシャープな撮影が世界観を形作る。驚かされたのは岡田将生の演技だ。オーディションのシーンで魅せる空間の支配はもちろん、車の中での独白シーンでは瞬きせずじっと見つめながら淡々と物語る。彼から発せられる念に身動きが取れなくなった。苦言を呈すとすれば『偶然と想像』もそうだが、濱口竜介のとってつけたようなコロナ描写だけはいただけない。
・【ネタバレ考察】『ドライブ・マイ・カー』5つのポイントから見る濱口竜介監督の深淵なる世界
3.洞窟(Il buco/The Hole)
監督:ミケランジェロ・フランマルティーノ出演:Paolo Cossi、Jacopo Elia、Denise Trombin、Claudia Candusso、Mila Costi etc
レナート・ベルタが撮る官能的な洞窟旅行。洞窟の深淵を目指して、外から内から撮影しているだけなのに、陰影礼賛、深淵の一部だけが見える様子に己のタナトスが刺激される。遊び心も多い作品であり、誰しもが子ども時代に思ったことでしょう穴や高所からボールを落としてみたい欲望も映画は叶えてくれ、穴を挟んでサッカーする過程でボールが穴に落下する恐ろしい事故シーンが映り込んでいる。ミニマムな作品であり、日本公開は難しそうですが、できれば映画館で没入してほしい。2020年代は『DUNE/デューン 砂の惑星』もそうだが、世界観に没入する映画が流行ってくるでしょう。その代表として私は『洞窟』を挙げたい。
2.アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ(Bad Luck Banging or Loony Porn/Babardeală cu bucluc sau porno balamuc)
監督:ラドゥ・ジューデ出演:Kristina Cepraga、トゥドレル・フィリモン、クラウディア・イェレミア、Olimpia Malai、Ilinca Manolache etc
遂にラドゥ・ジューデ監督が日本に紹介されました。第71回ベルリン国際映画祭にて最高賞・金熊賞を受賞した本作はSNSとは何かとコロナ禍の生活を結びつけた傑作だ。3部構成になっており、第一部ではセックスビデオが流出してしまった教師のコロナ禍における生活が描かれており、だらしなくマスクする人々が映し出される。第二部では、突然映像スライドショーが始まり困惑する。第三部の学校裁判では、序盤にあれだけだらしなくマスクしていた人が、お洒落マスクを装備して本題そっちのけでセックスビオデオ流出事件を肴に持論を投げつける。つまり、本作においてマスクはSNSのアバターやアイコンのような存在であることがわかってくる。そして第二部はTwitterやInstagramをスクロールしていると突然現れるショッキングな映像を象徴しており、SNSが持つ一方通行の暴力性に関する映画だということが判明するのだ。ユニークで鋭い社会批判しかと受け取りました。
・【ネタバレ考察】『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』ハリボテのマスクは、アバターを現実に引き摺り出す
1.ある詩人(Poet/Akyn)
監督:ダルジャン・オミルバエフ出演:エルドス・カナエフ、クララ・カビルガジナ、グルミラ・ハサノヴァetc
正直、映画のレベルでいったら『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』や『洞窟』、『ドライブ・マイ・カー』の方が上なのですが、今年はダルジャン・オミルバエフと出会えた喜びがあり、また第34回東京国際映画祭のコンペティション部門にワールドプレミアとして本作が持ってこれたことへの称賛もあって第1位は『ある詩人』とした。カザフ語で小説を書く人が絶滅の危機にある様を嘆く。世界は英語で淘汰され、経済のシステムとして小説家が生きることが難しくなった時代。しかし、本を開ば広大な大地が広がる。ダルジャン・オミルバエフ監督が『THE ROAD』、『ある学生』で模索した演出を応用させ、詩人の辛辣な悪夢を淡々と描く。ヨドバシカメラのような空間での追跡劇のシーンが不気味で最高でした。
・【東京国際映画祭】『ある詩人』広大な文学の地が失われる轍※ネタバレ
最後に…
2021年は映画ライターや映画配給会社の仕事に携わることになり、特に12月はNetflix映画を追う時間が取れなかった。Netflix映画は2022年前半に観賞することにしたいと思う。このように、最近は本業/副業多忙となってしまい映画観賞とブログ書く時間が取りにくくなってしまった。一方で、いろんな方が自分の文章を楽しみにされている。この状況にあぐらをかくことなく、2022年は地盤固めの年にしていきたいと思う。資格も何か取得できればいいなと考えています。
本業の方も2021年上半期に鬱になるまで追い込まれましたが、だいぶプロジェクトマネージャーとして上手く立ち回ることができるようになったのでこの調子で頑張っていこうと思います。
チェブンブンシネマランキング2020年新作部門
1.ある詩人
2.アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ
3.洞窟
4.ドライブ・マイ・カー
5.仕事と日(塩尻たよこと塩谷の谷間で)
6.ディア・エヴァン・ハンセン
7.Exile
8.The Card Counter
9.Mr.Bachmann and His Class
10.映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!
11.Beginning
12.アメリカン・ユートピア
13.The Painter and the Thief
14.クレイジー・ワールド
15.アイの歌声を聴かせて
16.あのこは貴族
17.コントラ/Kontora
18.ファーザー
19.ナディア、バタフライ
20.アリサカ
おまけ:短編ベスト
1.SSHTOORRTY
2.写真(『東京人間喜劇』より)
2.This House Has People In It
3.5 windows eb(is)
4.<--->
5.Wittgenstein Plays Chess with Marcel Duchamp, or How Not to Do Philosophy
6.WVLNT (“Wavelength For Those Who Don’t Have the Time”)
7.WIND
8.幕あい
9.The Bones
10.1DIMENSION
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