76 DAYS(2020)
監督:Hao Wu,Weixi Chen,匿名
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
2020年代がこうなるとは誰も予想できなかったことでしょう。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の世界的流行によって、多くの人が亡くなった。今までも鳥インフルエンザやSARSが世界的に流行したが、現代医療やテクノロジーによって大惨事には至らなかった。しかし今回のCOVID-19は1年経った今も世界中で蔓延し多くの死者を出した。ライフスタイルも2020年前後でガラリと変わり、リモートワーク、マスク着用といった概念が生まれている。そんな激動の時代、映画業界も何らかの形でアーカイブしようとしている。
フィリピン映画『こことよそ』ではロックダウンとなったフィリピンで、閉塞感から他者との間合いの取り方が分からなくなった者の感情をアーカイブしていた。さて、第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ショートリストに残った作品に『76 DAYS』がある。これは、新型コロナウイルス蔓延初期、ロックダウン中の武漢の医療現場を捉えたドキュメンタリーだ。Hao Wu、Weixi Chen、そして匿名の方によって伝えられる医療現場という戦場は劇映画のような巧みな編集で描かれていた。
『76 DAYS』概要
Raw and intimate, this documentary captures the struggles of patients and frontline medical professionals battling the COVID-19 pandemic in Wuhan.
訳:武漢で発生したCOVID-19のパンデミックに立ち向かう患者と現場の医療関係者の奮闘ぶりを生々しくとらえたドキュメンタリーです。
※immdbより引用
あの時、武漢で……
現場は混乱していた。未知のウイルスによりロックダウンした武漢で、医者たちは限られた人員、限られた物資、慣れない防護服で次から次へと現れる人たちの面倒をみないといけなかった。父に会いたい者もいる。しかし、立ち入りは厳重に管理されており、人情を捨てて冷徹に連れ出さないといけない。その極限状態に市民はフラストレーションを抱えていた。
それを映画的カット捌きで演出する。
例えば、扉がガンガンガンと鳴り響く。恐る恐る医者たちは扉に近づいて開ける。すると無数の市民が「入れろ!もう限界だ!何時間待たせる気だ!」と暴言を吐いている。ただ、順番に通さないと医者が感染する可能性がある。扉前に医者たちがバリケードを組み、「あなたは何番ですか?」「○○番の方どうぞ」と水際でせき止める。このゾンビ映画さながらの緊迫感に度肝を抜かれる。
患者は感情的になっている。何もかもが不自由で、面会すら許されない。電子機器はパッキングされて消毒される。あまりの多忙さに医者たちは、通路途中にあるベンチで泥のように眠っている。
いつまで続くのか分からない現場で、医者たちが僅かな希望とユーモアで乗り切ってみせる姿にただただノックアウトされる。本作はそう簡単に評価できる代物ではないのですが、少なくても2020年という地獄のフロントラインを数十年後に伝える貴重な資料としての価値が光るそんなドキュメンタリーでありました。
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※foreignpolicy.comより画像引用