【ネタバレ考察】『子供はわかってあげない』当事者の危機感ゼロに戦慄する『荒野の千鳥足』

子供はわかってあげない(2020)

監督:沖田修一
出演:上白石萌歌(adieu)、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治、斉藤由貴、豊川悦司、高橋源一郎、湯川ひな、坂口辰平、兵藤公美etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

沖田修一監督は深刻な内容をゆる〜く描くのを得意としている。『おらおらでひとりいぐも』では話し相手のいない黄昏に生きる老人の終焉を、イマジナリーフレンドとの掛け合いでユーモラスに描いていた。『横道世之介』では突然、「死」が浮かび上がり、『滝を見にいく』では老人が山で迷子になり生死をかけたサバイバルとなる。さて、最新作『子供はわかってあげない』はどうだろうか?田島列島の同名漫画の映画化。私は原作未読で挑んだのですが、これがトンデモナイ作品であった。

『子供はわかってあげない』あらすじ

田島列島の人気同名コミックを上白石萌歌主演、「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一のメガホンで実写映画化。ひょんなことがきっかけで意気投合した美波ともじくん。美波のもとに突然届いた「謎のお札」をきっかけに、2人は幼い頃に行方がわからなくなった美波の実の父を捜すことになった。女性のような見た目で、探偵をしているというもじくんの兄・明大の協力により、実の父・藁谷友充はあっさりと捜し当ててしまった。美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが……。主人公・美波役を上白石、もじくん役を「町田くんの世界」の細田佳央太がそれぞれ演じ、豊川悦司、千葉雄大、斉藤由貴、古舘寛治らが脇を固める。

映画.comより引用

当事者の危機感ゼロに戦慄する『荒野の千鳥足』

いきなり本作はアニメーションから始まる。寂れた飲み屋に魔法少女が現れ、おっさんにコンクリート、モルタルの化身を差し向け感動の再会をする。「ボボボーボ・ボーボボ」たるアヴァンギャルドな展開に、私は『子供はわかってあげない』の世界観から門前払いとなる。実はこれは本作の主人公・美波が愛するアニメであり、彼女がまさしく没入している光景を観客に突きつけていたのである。魔法左官少女バッファローKOTEKO」オタクの彼女の日常の始まり始まりである。

彼女は水泳部。練習中に、屋上でKOTEKOの墨絵を描いている子を見つけ、思わず走り出す。彼は、もじくん。一気に親密になった二人は意気揚々と歩くのだが、階段を降り1階まで歩く際のウキウキしたオタクトークの様子を長回しで描いているので。相米慎二に愛を捧げているようにも見えるが、生徒の平和すぎる群れの連動を背景に、KOTEKOワールドに包まれた二人の恍惚な空間を捉え続ける長回しは圧倒的なものを感じる。本作は、一見よくある青春キラキラ映画に見えて、このように実験的な演出を突発的に挿入していくる為、全く油断ができません。

なんといっても、本作は美波が親に、学校に守られていることから来る万能感によって、目の前で恐ろしいことが起きているにもかかわらず、彼女の口から禍々しい単語が出てきているにもかかわらず、フラフラと危険なベクトルへと吸い込まれていき、ヘラヘラし続ける姿が怖い。まさしくホラー映画だ。

彼女はKOTEKOを観にもじくんの家に行く。そしてお屋敷で徐に箱を開けて、お札を見つける(このシーンの、美波、もじくん、そして彼の爺さんの目線の交差を1つの画に収める場面が凄まじい)。それがきっかけで、彼女の前の父親が新興宗教の教祖であることが分かり、どういうわけか、探偵を雇って、夏合宿行っているフリをして父親の家に行くのだ。

父の家に行くと、彼は優しい顔をして歓待する。「俺は相手の頭の中が見えるんだ」とスピリチュアルなことを発言し始めたり、彼女の為に食材買うついでにテレビやKOTEKOのDVD-BOXを買う。さらには、彼女がお昼寝から目を覚ますと、水着姿で「俺に水泳を教えてくれ」と言い、彼女が心配になって助けに来たもじくんを酒で泥酔させる。

刻一刻と最悪な方向へと転がっているのに、美波はヘラヘラとし、1日、1日と滞在期間を延し、合宿へ戻れなくなっていくのだ。歓待受けて町から出られなくなる『荒野の千鳥足』を彷彿とする恐怖、ゆるいのにハードコアなジャック・ロジエ的旅が展開されるのだ。

まさしくタイトル通り「子供は(事態の深刻さを)わかってあげない」である。

さて、沖田修一監督は青春キラキラ映画あるあるに鋭い批評の眼を覗かせている。それは「走る」アクションについてである。青春キラキラ映画は終盤で必ずといって良いほど走ります。本作も例に漏れず、もじくんが走る感傷的な場面が用意されているのだが、横移動に逃げることなく、カットを畳み掛け、右へ左へ、奥へと立体的に移動を積み重ねていく。これにより、もじくんの焦りが強調され、トボトボと彼が曲がり角から戻ってくるショットで絶望を滲ませることに成功している。

沖田修一監督、改めて天才だなと思いました。

※映画.comより画像引用