サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-(2019)
SOUND OF METAL
監督:ダリウス・マーダー
出演:リズ・アーメッド、オリヴィア・クック、ポール・ラチ、マチュー・アマルリック、ローレン・リドロフetc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第93回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞(リズ・アーメッド)、助演男優賞(ポール・レイシー)、脚本賞(ダリウス・マーダー、アブラハム・マーダー※原案 : ダリウス・マーダー、デレク・シアンフランス)、音響賞(ニコラス・ベッカー、ジェイミー・バクシュト、ミシェル・クートレンク、カルロス・コルテス、フィリップ・ブラド)、編集賞(ミッケル・E・G・ニルソン)の6部門にノミネートしている『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』をようやく観ました。
ちょっとデレク・シアンフランが関わっていると聞いて、安易な閉塞感ものになっていそうだと警戒していました。確かにその部分も強い映画だったのですが、音の扱いが面白い作品でありました。
『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』あらすじ
「ヴェノム」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」のリズ・アーメッドが主演を務め、聴覚を失ったドラマーの青年の葛藤を描いたドラマ。ドラマーのルーベンは恋人ルーとロックバンドを組み、トレーラーハウスでアメリカ各地を巡りながらライブに明け暮れる日々を送っていた。しかしある日、ルーベンの耳がほとんど聞こえなくなってしまう。医師から回復の見込みはないと告げられた彼は自暴自棄に陥るが、ルーに勧められ、ろう者の支援コミュニティへの参加を決意する。共演に「レディ・プレイヤー1」のオリビア・クック、テレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のローレン・リドロフ、「007 慰めの報酬」のマチュー・アマルリック。監督・脚本は「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命」の脚本家ダリウス・マーダー。Amazon Prime Videoで2020年12月4日から配信。第93回アカデミー賞で作品、主演男優、助演男優など6部門にノミネートされた。
振動が虚空を奏でる
「聞こえる」とはどういうことだろうか?
恐らく、普段何気なく会話や街の音を享受している者にとってその質問は難問であろう。
では、「聞こえない」とはどういうことだろうか?
『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』では「聞こえない」の観点から、生活の不自由を観客もろとも巻き込んで描いていく。ライブツアー中の男ルーベン(リズ・アーメッド)は仲間と会話をしていると突然音が聞こえなくなる。水中にいる時のようなこもった音が木霊する。そしてそれは段々と強くなる。振動だけが空間を伝わる。しかし、会話の内容、音の内容、つまり「意味」が付随してこないのだ。聞こえるということは、空気の振動を脳が受け取り、脳がその振動を意味として翻訳することだったのだ。それを、繊細な音の差異で描いていく。
今まで音楽一本で、恋人ルー(オリヴィア・クック)と人生を謳歌してきた。ライブに来てくれるファンや一緒に空間を作る仲間もいる。それが一気に瓦解する。その恐怖に苦悩しながら彼は、医者の処置を受けるまでの間、施設で聾者の振る舞いを学習していく。
第93回アカデミー賞は、ケン・ローチ的労働者の過酷な生活を描いた原作を忠実になぞりながら別の思想で駆け抜けた移植ロードムービー『ノマドランド』や言葉を弾丸に変えた現代の西部劇『プロミシング・ヤング・ウーマン』、ある状況を観客に疑似体験させるべくトリッキーな編集を施した『ファーザー』など「技巧」で魅せる映画が多く、本作もその一本である。確かに、「聞こえること」を突き詰めた音の演出は素晴らしかった。
しかしながら、どこか予定調和のわかりきった閉塞感というレールの上で超絶技巧を披露しているだけに見えて消化不良に感じた。リズ・アーメッドの葛藤、そして冒頭のライブシーンのカッコ良さといいところは沢山あるのですが、そこまでノレませんでした。
※映画.comより画像引用
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