【チェブンブンシネマランキング2023】旧作部門第1位はマイケル・スノウのあの作品!?

【チェブンブンシネマランキング2023】旧作部門
さて、今年も恒例のこの企画がやってまいりました。

「チェブンブンシネマランキング2023」!

今年は、「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載作品を全て攻略した記念すべき年だ。また、日本映画に力を入れたこともあり、例年とは雰囲気が異なるベストに仕上がっている。それではチェックしてみましょう。

※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。

1.*Corpus Callosum(2002)


監督:マイケル・スノウ

マイケル・スノウの実験映画には惹き込まれるものがあるのだが、これには衝撃を受けた。監視カメラの映像に侵入し、オフィスを横移動で捉えていくが、突然電撃が走る。謎の空間にたどり着くと、扉や椅子といったオブジェクトがぐにゃりと変形しては、消滅していく。途中でエンドロールが始まる。映像メディアにとって、そこにあるものはオブジェクトに過ぎず自由に再構成できると定義した上で、どこまで自由にメディアで遊べるのかを追求した本作はアイデアの宝庫であった。

2.ミラノの奇蹟(1951)

監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
出演:フランチェスコ・ゴリザーノ、パオロ・ストッパ、エンマ・グラマティカ、ブルネラ・ボーヴォetc

ヴィットリオ・デ・シーカといえば『自転車泥棒』や『ひまわり』と教科書的な映画を撮る監督のイメージが強い。しかし、このノンシャランとした傑作は2020年代にも衝撃を与える膨大な手数で観る者を驚かせてくれる。しかも、何気ない移動や風景のショットですら絵画的集中線、消失点を意識した画面作りをしているのだ。貧しき者が方を寄せ合うボロボロの集落に、再開発のため役人が現れ対立となる。その撃退方法として、幻影帽子による追跡を採用したり、街中の馬車の屋根が同時多発的に解体されたりと面白いアイデアしかない作品であった。

3.ビデオドローム 4K ディレクターズカット版(1982)※再鑑賞


監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェームズ・ウッズ、デボラ・ハリー、ソーニャ・スミッツ、ピーター・ドゥヴォルスキーetc

デヴィッド・クローネンバーグは形而上を通じて、未来の生活様式をピタリと当ててみせる。『ビデオドローム』はSNSにより引き出される人間の暴力性を予見したような作品といえる。メディアを操る側が、ビデオドロームという名のコンテンツに惹かれていく。腹にビデオテープが挿入され、代わりに銃が出てくる。そして、いつしか殺戮マシンとなっていく様子は、気づかぬうちにメディアによって情報がインストールされ、暴力が引き出されていくSNSの特性に近いものがある。このメディアによる影響を直接的な表現で演出したクローネンバーグの視点に感銘を受けた。

4.当りや大将(1962)

監督:中平康
出演:長門裕之(沢村アキヲ)、轟夕起子、頭師佳孝、中原早苗、杉山俊夫、玉村駿太郎、近江大介、杉山元、武知杜代子、神戸瓢介etc

大阪のドヤ街を舞台にした新藤兼人脚本の本作は、異様な運動に満ち溢れている。画面の遠くで組体操をする者、奇妙な場所から出現する男など混沌としたドヤ街が強調される運動に圧倒される。なんといっても、主人公が広場の賭博場を次々と壊滅させていく場面は見事なもので、明らかに短時間で決着はつかないはずなのだが、漫画的コミカルさで壊滅を描き、その上で緊迫感のあるボス戦を魅せていく展開に感動した。また、終盤では、突如黒澤明『生きる』に対抗した展開が始まる。これに爆笑した。

5.そして光ありき(1989)


監督:オタール・イオセリアーニ
出演:シガロン・サニャ、サリー・バジーetc

先日、オタール・イオセリアーニが亡くなった。日本では、ビターズ・エンドが本気を出し、全作上映が実現した。中でもセネガルで撮影された『そして光ありき』は、鑑賞難易度SSRの作品であり、フランスのDVD-BOXを取り寄せようにも15万円くらいかかるほどの入手困難さであった。10年以上探していただけに楽しみにして観たのだが、これが素晴らしかった。マジックリアリズム的世界のユニークさ、人間の生首をくっつけて蘇生させる、息を吹きかけると暴風が発生する。このような不思議な世界観の中で、侵略者による破壊が描かれるのだが、それはイオセリアーニがジョージアを離れてフランスに行かざる得なかった状況の哀しさが滲み出ている。おかしくも切ない一本である。

6.遙かなる国の歌(1962)

監督:野村孝
出演:小林旭、小高雄二、武藤章生、沢本忠雄、小野良etc

新作部門の1位に『白鍵と黒鍵の間に』を選んだ。本作を観た際に思い浮かべたのは小林旭のこの映画であった。かつて日本はミュージカル大国であり、ハリウッド顔負けの運動で物語る作品が多く作られた。本作もその一本であり、小林旭演じる、ジャズマンがバーを沸かせ、仲間を作りながら成功を目指す。ショービズ界隈は危険がいっぱい。ライブ会場にヤクザが押し寄せてくるのだが、会場のセットを壊すまいと、サッと避けながらパンチ、キックをかまし撃退する。粋なアクションがジャズの自由さと絡み、そのまま映画のジャンルまで変わってしまう。映画の魔法に満ちた作品であった。

7.RR(2007)


監督:ジェイムズ・ベニング

ジェイムズ・ベニングは「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載の『Deseret』で初エンカウントし、ただの紙芝居映画にうんざりした。しかし、彼の映画は観る写真集として捉えることが重要であり、イメージフォーラムで組まれた特集を通じて観直した。列車にとっかした本作は、ただ、数分に及ぶ列車の移動を数十カット並べていくだけの作品だ。しかし、列車を撮るだけでここまでバリエーションがあるのだと気付かされる。特に移動する列車と静止する列車、車と人を交えた情報量の多い移動を捉えた場面は感動ものであった。

8.夕方のおともだち(2022)


監督:廣木隆一
出演:村上淳、菜葉菜、好井まさお、鮎川桃果、大西信満etc

当たり外れが大き過ぎて、毎回博打となる廣木隆一監督の官能ドラマは、演技と素を手繰り寄せたスリリングなやり取りを描いている。SMクラブにおける虚構は、単に提供されるだけのものではない。客と一緒に対話をし想像していくものである。性欲を失いつつある主人公は、演技ができなくなり、S嬢から素を引きずりだしてしまう。彼は3人の女を通じて幻滅し、それを解消する道筋を見出していく。本作が面白いのは、主人公が女にリードされるだけではなく、突発的な運動によって手綱を握る場面があることにある。人間の距離感の物語として大傑作であった。

9.ハウス・バイ・ザ・リバー(1950)

監督:フリッツ・ラング
出演:ルイス・ヘイワード、リー・バウマン、ジェーン・ワイアットetc

フリッツ・ラングの修羅場映画。家政婦の娘を殺めてしまった男が弟と結託して川に捨てるのだが、浮上する死体、疑いの目がふたりを狂わせていく。階段による死の予感の反復、違和感がある布のゆらめきによる霊的気配が男を追い詰めていく様や川に浮上する死体をどうにかしようとすればする程、死体の全貌が露見してしまうおかしさが堪らない。修羅場映画における、窮地を脱するか否かの宙吊り状態の持続がスタイリッシュに、コンパクトにまとまった傑作である。

10.サタンタンゴ(1994)※再鑑賞


監督:タル・ベーラ
出演:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、ルゴシ・ラースローetc

2023年は映画系VTuberとして活動した。VTuberは時折、映画の同時視聴をするのだが、個人的に映画はひとりで観る者だと思っていることもあり、この文化には懐疑的であった。しかし、ものは試し。一度はやってみたいと思った矢先に『サタンタンゴ』がAmazon Prime Videoにて配信されるニュースが舞い込み、やってみた。公開当時、面白く観た一方で、竜頭蛇尾な作品に感じた。今回も、その感覚はあったのだが、オーディオコメンタリー方式で演出の解説をする中で、タル・ベーラの凄まじさを改めて見出すことができた。長回しであるが、そのカメラの動きが非常に複雑である。『ジャンヌ・ディエルマン』や『田舎司祭の日記』からの影響を受けるものの、ただの引用で終わらすことなくアレンジを入れるといった演出の工夫に魅了されたのであった。同時視聴やって正解だった。

11位以下

11.Century of Birthing(2011)
12.あの娘と自転車に乗って(1998)
13.マチネー/土曜の午後はキッスで始まる(1993)
14.パート2(1975)
15.ミュリエルの結婚(1994)
16.幸福の設計(1947)
17.Police,Adjective(2009)
18.地獄の警備員(1992)
19.脳内ニューヨーク(2008)※再鑑賞
20.ハタリ!(1962)

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