『a-ha THE MOVIE』パブリックイメージに潰された者たち

a-ha THE MOVIE(2021)

監督:トマス・ロブサーム、アスラーグ・ホルム

評価:60点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

a-haの「テイク・オン・ミー」は、映画界の万能ソース的扱いとして、雑に引用されがちだ。一度聴いたら忘れられないメロディ、アニメと実写を合成したいわゆる「エモい」ミュージックビデオが有名なこともありあらゆる場所で擦られている。しかし、a-haの他の曲を知っているだろうか?映画ファンだと『007/リビング・デイライツ』の主題歌を思い浮かべるかもしれない。正直、私もその程度の認知であった。そこで、彼らのドキュメンタリーを観てみることにした。

『a-ha THE MOVIE』概要

1985年にリリースしたデビュー曲「Take on Me」が世界的ヒットを記録したノルウェー出身のポップグループ「a-ha(アーハ)」の軌跡をたどったドキュメンタリー。1982年のオスロで、モートン・ハルケット、ポール・ワークター、マグネ・フルホルメンの3人によって結成されたa-ha。デビュー曲「Take on Me」は革新的なミュージックビデオが大きな話題を呼び米ビルボードで1位を獲得、ファーストアルバム「Hunting High and Low」は全世界で1100万枚以上もの売上を記録し、瞬く間にスターダムを駆け上がった。その後もヒット曲を次々と世に送り出すが、次第にメンバーの間に溝が生まれていく。3人の出会いとバンド結成、狂騒の80年代から90年代、解散と再結成を経て今なお進化を続ける彼らの姿を描き出す。

映画.comより引用

パブリックイメージに潰された者たち

オーソドックスな活動歴を連ねていくタイプの作品なのだが、明らかに様子がおかしい。最初からメンバーはどこか冷めているのだ。キーボード担当のマグネ・フルホルメンに関しては、「ケンカになるだけだ。最後には殴り合いたくなる。」とスタジオに入りたがらない。映画は、彼らの経歴からその原因を探ろうとする。

マグネ・フルホルメンは音響技術者でミュージシャンの父を持ち、幼少期から音楽に触れていた。「好きなバンドは自分もメンバーになった気がした」と幼少期から、音楽家への羨望の眼差しを向けていた。そんなある日、学校帰りにポール・ワークター=サヴォイを目撃する。彼は段ボールにビニールを張った簡易ドラムで演奏をしていた。二人は仲良くなり、バンドを結成する。

当時のノルウェーの音楽は辺境扱いをされていたようで、国外で有名になるアーティストはほとんどいなかったとのこと。高校卒業後イギリスへと渡る。そしてカリスマ性のあるリードヴォーカル、モートン・ハルケットと出会うのだ。周りが全てスターに見えてしまいヒヨっている二人を、スターの座へと持ち上げたのは彼だ。マグネが14~15歳の時に作ったリフ。それに彼の高音(ファルセット)を重ね合わせることで、「テイク・オン・ミー」は形になりつつあった。アイドルソングとして、モートンを主軸にしたバージョンが1984年10月19日に欧州でリリースされるとノルウェーではヒットしたものの、この時点では世界的に売れることはなかった。

そんな「テイク・オン・ミー」を誰もが知る作品に押し上げたのは、マイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」のMVで知られるスティーヴ・バロンであった。アニメと実写を合成したエモいMVのおかげで彼らは国際的に知られるようになり、ワールドツアーも行うようになっていったのだが、次第にパブリックイメージや互いの音楽性の違いに悩まされることになる。

『007/リビング・デイライツ』の主題歌は、事前に知らされない状態で映画作曲家のジョン・バリーが干渉してきて、険悪な状態が生まれたとのこと。そして、段々と知名度の裏で憎悪と葛藤が醸造されていき、三人は心が交わらない関係になってしまったとのこと。

あまりにヒリヒリする歴史に観ていて辛くなる。そして、80年代感、エレクトロ感を醸し出す目的だけに擦られる「テイク・オン・ミー」の扱いがあまりにもかわいそうだなと感じた。

※映画.comより画像引用

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