【YIDFF2023】『声なき証人』コロンビアの無声映画を繋ぎ合わせて『地獄の黙示録』を作る

声なき証人(2023)
英題:Silent Witnesses
原題:Mudos testigos

監督:ヘロニモ・アテオルトゥア・オルテアガ、ルイス・オスピナ

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

山形国際ドキュメンタリー映画祭でインドの奇才アミット・ダッタの新作が上映されると聞いて観に行った。そうしたらコロンビアの映画も同時上映だったのだが、これが2023年のベスト候補レベルの傑作であった。

『声なき証人』概要

20世紀前半の激動するコロンビアの歴史を、現存するアーカイブ映像を駆使して描く想像の旅。コロンビアでは、無声映画期に長編作品が12本製作された記録が残っており、そのうち2本は完全に保存されているが 2本が失われ、残りの作品については断片しか残っていない。ドキュメンタリー映画はさらに散在しており、正確な本数を把握することは困難なままである。本作は、遺されたすべての無声映画を再編集することにより、1本の架空の映画として創り上げられたものである。エフラインが、権力者で復讐に燃えるウリベの婚約者アリシアと恋に落ちるメロドラマとして始まる映画は、ジャングルの奥深くへと分け入っていくと現代的な物語に変わり、南部の農民たちの屈辱的な境遇と武装反乱の誕生を私たちは目撃することになる。

※山形国際ドキュメンタリー映画祭サイトより引用

コロンビアの無声映画を繋ぎ合わせて『地獄の黙示録』を作る

コロンビアでサイレント映画のフッテージが見つかり修復したと提示される。エフラインがアリシアと出会い親密な関係になる。典型的なボーイ・ミーツ・ガールものであるが、的確にアイリスインを入れたり、群れの中で二人を強調したりと、音がなくても筋が追えるほどに強固な画を連ねる。サイレント映画時代が得意としていた画による表現を堪能する。彼女には別の男ウリベがいたため、二人は文通を通じて密かに愛し合っていたのだが、段々と燃え上がる愛情を制御できなくなってくる。それにより悲劇が勃発し、街を焼き尽くす火災にまで悲劇が広がっていく。ここでふと演出に疑問を抱く。サイレント映画の作品にしてはあまりに過剰なフッテージの重ね合わせが行われるのだ。ペーター・チャーカスキーやガイ・マディンさながらの壮絶なMAD動画が展開され、映画はなぜか失踪したウリベとアリシアを追うようにアマゾンの深部へと潜っていく『地獄の黙示録』のような物語が始まるのだ。

後で調べて判明したのだが、本作はサイレント映画のフッテージを繋ぎ合わせて架空の映画を作るというものなのだ。なのでアマゾンパートでは主人公らしい存在が見当たらないのも納得が行く。そして、キメラのように結合された物語はギャグのような超展開も用意されている。アマゾンの深部へと潜る中で戦争に巻き込まれるのだが、「戦争とは無関係だが参加してみることにした」とYouTuberみたいなノリで激しい銃撃戦に参加する場面があるのである。これには爆笑した。最近だと『オオカミの家』や『骨』がフッテージを使った偽映画という体で物語を編み込んでいた。このアプローチに可能性を見出したのであった。1回しか上映がなかったかつ「二重の影」部門は映画祭ギリギリまで映画の詳細がサイトにアップされていなかったため、会場の100人ぐらいしか知らない異様な体験だった。是非ともシアター・イメージフォーラムあたりで公開されてほしい。