【ネタバレ考察】『ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』メディアは人を操る

ビデオドローム 4K ディレクターズカット版(1982)
Videodrome

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェームズ・ウッズ、デボラ・ハリー、ソーニャ・スミッツ、ピーター・ドゥヴォルスキーetc

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2023年はデヴィッド・クローネンバーグが熱い!『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』だけでなく『裸のランチ』や『ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』も劇場公開となるのだ。デヴィッド・クローネンバーグ映画好きにはたまらない年である。ということでシネ・リーブル池袋で『ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』を観てきた。本作は中学時代に観ているのだが、当時は全くもってわからない映画であった。ただただ、軋むテレビの描写が気持ち悪かったことを記憶している。今回、観てみると驚くほどに今に通じる物語となっていた。

『ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』あらすじ

鬼才デビッド・クローネンバーグが1982年に発表した「ビデオドローム」のディレクターズカット版。見る者を狂気の世界に陥れる殺人映像に魅入られた男の顛末を描いたSFホラー。製作から40年を記念して、上映時間89分のディレクターズカット、初の4Kデジタルレストア版で公開。

暴力やポルノが売り物のケーブルテレビ局を経営するマックスは、ある日、部下が偶然に傍受した電波から「ビデオドローム」という番組の存在を知る。その番組には、拷問や殺人といった過激な場面が生々しく映し出されていた。やがて「ビデオドローム」は見た者の脳に腫瘍を生じさせ、幻覚を見せるものであることがわかり、「ビデオドローム」に支配されたマックスの世界も均衡を失っていく。

主人公マックスを「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」などで知られるジェームズ・ウッズが演じた。生き物のように脈打つブラウン管テレビの画面や機械と混じり合う肉体など、名アーティストのリック・ベイカーが手がけた特殊メイクも見どころ。

映画.comより引用

メディアは人を操る

本作は、デヴィッド・クローネンバーグ初期作である『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』『ステレオ/均衡の遺失』の理論を具体化した作品である。『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』では機能なき完璧に取り憑かれた同僚の跡を追ううちに、ミイラ取りがミイラになる話であった。『ステレオ/均衡の遺失』ではテレパシーが当たり前の世界において、他者の思考が侵食する状況下で本心をどこに置くかの思考実験が行われていた。この二作を踏まえると、本作で何をやろうとしているのかがわかるであろう。

ケーブルテレビ局を経営するマックス。彼は新しいコンテンツを探している。「サムライ・ドリーム」と呼ばれる日本のポルノコンテンツを試写で観るが、いまいちピンと来ない矢先に『ビデオドローム』の存在に気づく。部下が発見したこのテレビ番組では、湿った粘土壁を背に拷問を受けている女性が映し出されていた。AVにありがちな余計なドラマパートなしで、ひたすら暴力を映すヤバい動画に取り憑かれていくうちに身の回りで怪奇現象が起きていく。

コンテンツ提供のためにポルノ映像をビジネスとして冷静に捉えようとする男が、いつしか『ビデオドローム』に取り憑かれていき、陰謀論のようなものに嵌っていく展開は『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』の発展系であろう。こちらは抽象的であったが、『ビデオドローム』では映像コンテンツにより人々の行動を操作しようとする陰謀論に落とし込んでいる。また、映像コンテンツが無意識に人々の行動を操る点は『ステレオ/均衡の遺失』で語られたテレパシーによる他者への干渉を具体的にしたものであろう。マックス(ジェームズ・ウッズ)は『ビデオドローム』に取り憑かれていく中で、銃と手が融合していく。それは『ビデオドローム』内でも暴力への渇望が無意識レベルから認知可能なレベルにまで浮上していく様子を象徴させている。この象徴的な表現として、ぐにゃぐにゃ蠢くビデオテープを腹の中に入れ、それが銃に置換され、手と融合していく流れを取る。映像による洗脳を直接的に描いているのだ。あまりに直接的な表現となっているので、中学時代の私にはよく分からなかったのだろう。

また、デヴィッド。クローネンバーグは今に通じる物理世界/仮想世界との関係を紐解いている。マックスは『ビデオドローム』を通じて物理世界/仮想世界の境界線が曖昧となっていく。映画を観ていると、不自然な箇所が多いことに気づく。例えば、夢から醒めると横に女が眠っている。同僚を呼び、写真を撮ろうとすると彼女は消えている。銃と融合した手は、次の場面で解除されている。色々おかしいのだが、マックスはその受容しないといけなくなる。つまり、物理世界と仮想世界が存在し、そこで経験するものを現実として捉えマックスの物語は進んでいくのである。これは後の『裸のランチ』で応用される。自伝『Cronenberg on Cronenberg』によればクローネンバーグは薬物をやっていなかったとのこと。そんな彼が薬物中毒者であるウィリアム・バロウズの世界に迫る際に、等価に扱われる世界線と現実との関係性を用いた。実際の世界でから観ると、ウィリアムの行動はおかしい。異世界に逃亡するチケットを持っていると語るが、手に持っているのは殺虫剤という矛盾が生じている。しかし、ウィリアムはその矛盾を受容する。インターゾーンでスパイ活動している自分を現実として捉え、執筆した報告書を通じて他者から見た世界と繋がるのだ。

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』では、この受容の物語に別の視点を加えようとしているように感じる。『ビデオドローム』では洗脳により身体の変化、思想の変化を受け入れる話となっているのに対し、こちらは抵抗する話になっているように見えるのだ。ここについては時間をおいて検討する必要があるが、とにかく久しぶりに観た『ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』は最高に面白かったことを報告する。

※映画.comより画像引用