『忌怪島 きかいじま』ヴァーチャルはリアルの下位存在ではない

忌怪島 きかいじま(2023)

監督:清水崇
出演:西畑大吾、生駒里奈、平岡祐太、水石亜飛夢、川添野愛etc

評価:20点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

Jホラーの清水崇がメタバースをテーマにした映画を作ったらしい。昨年からメタバースやVTuberの研究をしている身としてはチェックしたい。ということで観た。これがあまり良い映画ではなかった。

『忌怪島 きかいじま』あらすじ

「犬鳴村」に始まる「恐怖の村シリーズ」を手がけた清水崇監督が、今度は閉ざされた島を舞台に、現実世界と仮想世界という2つの空間で巻き起こる恐怖を描いたホラー。人気アイドルグループ「なにわ男子」の西畑大吾を主演に迎えた。

南の島を訪れたVR研究チーム「シンセカイ」のメンバーたちに、不可解な死や謎が次々と襲いかかる。非科学的なことを信じないシンセカイの天才脳科学者・片岡友彦は、父の死をきっかけに島にやって来た園田環とともに真相を解き明かすべく奔走するが……。

園田環を「ザ・ファブル」シリーズの山本美月、島の住人である謎の少女・金城リンを「水は海に向かって流れる」の當真あみ、シンセカイのメンバーを元「乃木坂46」の生駒里奈、「キッズ・リターン 再会の時」の平岡祐太、「ベイビーわるきゅーれ」の水石亜飛夢、「ミュジコフィリア」の川添野愛が演じる。

映画.comより引用

ヴァーチャルはリアルの下位存在ではない

人間にあまり興味のないエンジニアが誰とも関わらなくて済む場所として仮想空間に島を作ろうとする。島のエンジニア集団と合流し開発する中で、島の呪いを呼び覚ましてしまい大惨事となる。正直、仮想世界を研究している私にとって本作は全然事前調査を行えておらず単にバズワードに乗っかっただけのイメージが強かった。バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』や難波優輝が『現代思想 2022年9月メタバース特集号』に寄せた論考『メタバースは「いき」か?』で語られている通り、リアル/ヴァーチャルの線引きは問題とされている。リアルからの現実逃避としてヴァーチャルを定義するのは、ヴァーチャルを現実として捉えている者を抑圧してしまうとされている。なので自分の認識としては、物理世界と仮想世界が地続きに存在し、それらによる体験を現実として捉えるのがベタだと思う。

しかし、本作はエンジニアの男が現実逃避の場として仮想世界を作っているような描かれ方をしている。そして、彼と仲間が作る世界はメタバースというよりかは単に現実にある場所を仮想世界に複製するデジタルツインに留まっている。そこには経済圏もコミュニケーションもほとんど発生していないのだ。では、物理世界と仮想世界が溶け合うことによる恐怖、例えば『パプリカ』のような専門家がその専門を活かして行動するもいつの間にか背後を取られてしまうといったものはあまり描かれない。ディスプレイをつけているという意識がずっとついて回る上に、呪いはディスプレイやマシンを介さず攻撃を仕掛けてくる。

唯一良かったところは笹野高史演じるシゲルだろう。怖さとギャグの曲芸が披露されるのだが、それがめちゃくちゃツボであった。

※映画.comより画像引用