『スキャナー・ダークリー』何者であり何者でもない

スキャナー・ダークリー(2006)
A SCANNER DARKLY

監督:リチャード・リンクレイター
出演:キアヌ・リーヴス、ロバート・ダウニー・Jr、ウディ・ハレルソン、ウィノナ・ライダー、ロリー・コクレインetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

中学生の時に観てよくわからなかった作品『スキャナー・ダークリー』を観直した。リチャード・リンクレイター監督は『スクール・オブ・ロック』や『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』といった青春映画のイメージが強いが、ロトスコープを使った難解映画を初期に制作している。今観ると少し分かってくるものがあった。

『スキャナー・ダークリー』あらすじ

「ブレードランナー」「トータル・リコール」「マイノリティ・リポート」など、多くの著作が映画化されてきたSF作家、フィリップ・K・ディックの77年作「暗闇のスキャナー」をリチャード・リンクレイター監督が02年の監督作「ウェイキング・ライフ」同様に実写映像にデジタル・ペインティングを施し、アニメ風に映像化。近未来のアメリカ・カリフォルニア郊外を舞台に不毛な麻薬との戦いを続ける覆面麻薬捜査官の虚実入り乱れたドラマが描かれる。

映画.comより引用

何者であり何者でもない

ある男は部屋中に湧く虫に怯え、知り合いに電話している。知り合いは「虫を捕まえて持ってこい」と指示を出す。落ち着いている。幻覚だと知っているからだ。統合失調症のように虚実乱れる世界に怯える男の物語の裏で、潜入捜査官の物語が並走する。「何者にもなれる」スーツを着ることにより個人が特定されない彼はドラッグ物質Dの調査を行っていた。実はその統合失調症のような行動をする男は彼が演じているものであった。

ロトスコープにより「誰でもない」を様々な人物を重ね合わせることで表現するユニークな手法に魅了される。スーツの中で、捜査官は指示を受け、演技をする。外見は違うので他者に正体を見破られないかと思いきや、意外にも仕草で身バレしそうになる。これは公開当時にはわからないような感覚だったが、Vtuberが街中にて声で身バレしそうになる話をよく聞くだけに、時代が追いついたような気がする。

他者を纏うことにより、肉体と精神が分離し、自分をある種客観視することとなるが、それは内なる自己と向き合うことに繋がり蝕むこととなる。自己をどこに定着させるのか迷うなかでおかしくなっていく感情が描かれていると言えよう。また、自己と他者の認識差の描き方が怖い。例えば、検査のシーンで「これは何のシルエットに見える?」と訊かれる。明らかにヤギなのだが、正解は犬であった。一意にならない問題のはずなのに、答えは一つだと言われ、錯乱される。ロトスコープの、現実だが虚構であり、目の前にあるものが現実とは限らない特徴を最大限活かした描写と言えよう。

※映画.comより画像引用