【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『バグダッドの盗賊』垂直方向のマジック

バグダッドの盗賊(1924)
The Thief of Bagdad

監督:ラオール・ウォルシュ
出演:ダグラス・フェアバンクス、ジュラン・ジョンストン、メイ・ウォングetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「死ぬまでに観たい映画1001本」終盤に差し掛かり、サイレント映画を一掃中。今回は『バグダッドの盗賊』だ。『バグダッドの盗賊』といえば何度も映画化されている作品だが、本書に掲載されているのはラオール・ウォルシュ×ダグラス・フェアバンクスバージョンだ。サイレント映画は得意ではないのだが、この作品は空間の使い方が面白かった。

『バグダッドの盗賊』あらすじ

バグダッドの都の国王には美しい姫君があった。姫の婿君を選ぼうとした時、ペルシャ、印度、蒙古の三王子が美々しい行列をもって乗り込んで来たが、はたして王宮に忍び入って、姫の美しさに魂を奪われたバグダッドの盗賊も7つの島の王子と名乗って僅か一人の供を連れて入場する。砂占いから我が婿となる王子は初めに王庭のばらに触れるであろうと心をときめかせながら見ていると、バグダッドの盗賊の乗馬が蜂に刺されて狂い、彼はまっさかさまにばらの植え込みに投げ込まれ、かくて彼は姫と結婚すべき運命を与えられた。姫は彼の姿を一目見て、その雄々しい姿に深く心を動かされた。しかし彼の正体は見破られて姫の婿になる企みは失敗に帰した。姫は3人の王子達に一番珍しい宝物を7ヶ月目に持ってきた人を婿にすると一時逃れを言うので、3人の王子はそれぞれ宝物を捜しに出発する。

MOVIE WALKERより引用

垂直方向のマジック

サイレント時代の、ファンタジーものは演劇的セットを組まれる印象が強い。カメラもフィックスだったりするので、うっかりすると画が平坦になってしまう。だが、今日まで語り継がれるサイレント映画は、単なる演劇の拡張に陥ることなく映画的創意工夫に溢れた作品となっていることが多い。『バグダッドの盗賊』はとにかく垂直方向において豊かな空間の使い方をしている。

盗賊が鼻を利かせながら、食料のありかを特定する。地上から10mぐらい上方のベランダに料理が置かれている。彼は、男から布を奪い、近くにあったパイナップルを取り付ける。そしてヒョイと、ベランダに引っ掛ける。寝ているおじさんの身体の部位を滑車代わりにし、動力をロバに委ね、上昇する。ロバの水平方向の移動と、盗賊の垂直方向の移動を斜め上から捉える。このような画はあまり観たことがない。その新鮮さに驚かされた。

また、垂直のアクションで注目すべきはベランダでメシ泥棒していることがおばちゃんにバレる場面。丁度、地上部分で奇術師が、ロープを棒のように硬くする術を群衆に魅せている。盗賊は、自分の真横に来た硬いロープにしがみつく。カメラは地上を映す。地上のロープはふにゃふにゃとしているのだが、盗賊がいる上方は硬い。このような光景は現実だとほとんど観ることができない。つまり、演劇から一歩出た場面といえるのだ。そこから巨大壺逃走劇へと雪崩れ込む。このパワフルな作劇は今観ても色褪せることがないだろう。

徹底的に作り込まれた美術と、浮遊感ある世界観、何よりもダグラス・フェアバンクスの胡散臭さと身体能力の高さに惹き込まれた。

※MUBIより画像引用

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