DO NOT SPLIT(2020)
原題:不割席
監督:アンダース・ハマー
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
アカデミー賞のマイナー部門である短編ドキュメンタリー映画賞はいつも小粒で真面目だけが取り柄の映画的魅力がないものが多い気がする。しかし、第93回アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされている『DO NOT SPLIT』はどうやら違うらしい。本作は、2019年3月から香港で発生した逃亡犯条例改正案を巡る市民と警察の激しい対立を追ったドキュメンタリーである。同様の内容は、日本でも『香港画』で描かれており、あまりのパワフルさから年末に公開されたにもかかわらず第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画部門に選出された。本記事では、『香港画』とも比較しつつ感想を書いていく。
『DO NOT SPLIT』概要
In 2019 Hong Kong was rocked by the largest protests since Britain handed back the area to China in 1997. This is the story of the protests, told through a series of demonstrations by local protesters that escalate into conflict when highly armed police appear on the scene.
訳:2019年の香港は、1997年に英国が中国に返還して以来、最大規模の抗議活動に揺れた。これは、高度に武装した警察が現場に現れたことで紛争に発展した、地元の抗議者たちによる一連のデモを通して語られる抗議活動の物語です。
香港民主化デモの深部
銀行に若者が集まり、扉をこじ開けようとする。すると「こっちだ!」と仲間から声がかかる。金を引き出そうとしたおばあさんを追い出し、中に入る。そしてガソリンを撒き散らし、ATMを業火の渦に包み込む。強烈な画から始まる本作は、香港民主化デモの壮絶さを画で斬りこもうとする意志が感じられる。
ドキュメンタリー映画は、世界で起こっている事を等身大として限られた時間に収める。一方で、編集や撮影で意識/無意識的に製作陣の思想が反映されるのでどうしても虚構が紛れ込んでしまう。その為、ドキュメンタリー映画にも劇映画と同様の資格的アプローチや、編集のキレが重要視されるべきだと思っている。いかにして観賞者に問題の興味を抱かせるのか?その為に撮影や編集を疎かにしてはいけない。
『DO NOT SPLIT』では、巧みな編集捌きで香港民主化デモを捉えている。打ち込まれたガス弾を急いでゴミ袋に封印する。そして破壊する。しかし、特定できない場所から銃声が聞こえてくる。市民は警察官に向かって歩く。次のカットでは後ろ向きに歩き始め、そして逃げる。勢力の著しい変化をカット繋ぎで捉えて魅せている。
道路に不気味に現れる警察車両、傷だらけの市民を取り囲む同士、逃げ惑う市民を数珠つなぎにするカット、35分の中で香港民主化デモの深部を余す事なく捉えているのだ。『香港画』では入り込むことができなかった、デモのフロントラインにまで斬りこめている。一方で『香港画』では、インタビューを通じて斬りこめなかったフロントラインを補っている。元警察官が語る、事態の変化などはこのデモによる人々の分断を補足するに十分な証言と言える。
『DO NOT SPLIT』ではインタビューよりも画で物語ることに注力していた。両者とも大傑作であり、甲乙つけるものではないことは明白であろう。是非とも両ドキュメンタリーを通じて香港の壮絶な事件について触れることをオススメします。
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