復讐は私にまかせて(2021)
原題:Seperti Dendam, Rindu Harus Dibayar Tuntas
英題:Vengeance Is Mine, All Others Pay Cash
※東京国際映画祭公開時タイトル:復讐は神にまかせて
監督:エドウィン
出演:マルティーノ・リオ、ラディア・シェリル、クリスティン・ハキムetc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第34回東京国際映画祭でインドネシア出身エドウィンの『復讐は神にまかせて』を観た。本作は第74回ロカルノ映画祭で金豹賞を受賞しており、撮影には黒沢清映画や沖田修一監督作の撮影を手がける芦澤明子が務めている。
『復讐は神にまかせて』あらすじ
マッチョな荒くれ者の青年は、ケンカに強い女性と恋に落ちるが、実は性的不能のコンプレックスを抱えていた…。撮影は名手・芦澤明子。Tokyo Gap-Financing Market 2020参加企画の作品。
※第34回東京国際映画祭より引用
勃たない男は拳で会話する
本作は、ローカルジャンル映画の体裁をとりながら、巧妙な映画文法と豊穣な語りで進行する意欲作だ。チキンレースが始まり、主人公である男が颯爽と金の入った瓶をゲットする。するとカメラが移動し、トラックの背に描かれたイラストが神のような目線で語りかける。
この男はマッチョであるが、勃たないことにコンプレックスを抱き、夜な夜な女性とイチャつく際も、自分の指でバレないように情事を育んでいる。そんな男の前にケンカっ早い女が現れて唐突に戦闘が始まる。『ダーティハリー』の終盤さながら、土木工場の狭間を縫い、追う/追われるの構図を描きながら、気がつけば昇りゆくベルトコンベアの上で拳を重ねる。ストリートファイターから立体的構図を導く鮮やかさに、エドウィンの只者ではない熱量を感じる。
そんな二人は拳で語り合い、友情から恋情へと変貌を遂げていくが、とある事件によって引き離されてしまう。男は牢獄に入れられてしまうのだ。牢獄で、盲目の老人に修行という名のイジメを受けている最中、女は復讐の旅に出る。一方、その陰で別の女の復讐譚が始まる。この女は何者なのか、この3人の関係性が映画を追っていくと、奇妙な経路で明らかにされていくのだ。まるでギリシャ神話のように、壮大に。
安直な言い方をすれば、インドネシアのタランティーノ映画であるのだが、昨今の頭でっかちなタランティーノ映画に比べると、『ダーティハリー』、『人魚伝説』、『トラック野郎』と様々な映画の面影を引用しながらも、ストーリー構成にも目配せが行き届いており、感動を抱くほど観たことない世界観が広がっていて楽しかった。
これは日本公開してもバチ当たらないと思う。
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※第34回東京国際映画祭より画像引用