言語の向こうにあるもの(2019)
Beyond the Language
監督:ニシノマドカ
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
山形国際ドキュメンタリー映画祭で学校ドキュメンタリー『言語の向こうにあるもの』を観た。本作はパリ第8大学の大学の授業を捉えたもので、国内外の生徒がフランス語を使ってジェンダー論や歴史について議論する。フランス留学したことのある私は親しみを感じたので観てみました。
『言語の向こうにあるもの』概要
パリ第8大学の「外国語としてのフランス語講座」の授業風景。文学とジェンダーという2つのテーマを通して、国内外から来た学生たちによる自由な討論を描く。
※山形国際ドキュメンタリー映画祭サイトより引用
フランスの授業から観る多様性のあり方
フランスの授業は日本と大きく異なるところがある。それは議論が中心となる点だ。先生が生徒に語りかけ、議論をする。発表の機会も多い。これはフランス留学した時に私も感じたことだが、この映画でフレームに収められた授業も同様である。アフリカ等の移民たち、フランス語が母語でない者がフランス語を使って歴史やジェンダー論について学ぶ。哲学者の名前を黒板に書いていく。そして、生徒たちが自分たちのルーツについて話す。授業はフレンドリーなように見えて意外と厳しく、原稿を見て発表すると問答無用で怒られる。『Mr. Bachmann and His Class』と同様に、国際平和は議論の末に生まれることを信じた授業が展開されるのだ。
本作が面白いのは、議論を振り返る場面があるということだ。男らしさ/女らしさといった繊細な話題になると白熱してしまう。ある学生は、無意識に女性を見下し、女性のことを分かった気になって女子生徒の言い分を無視して持論を押し付ける。「教えてやろう」という立場で話す。そして議論は崩壊する。だが、振り返りで、互いの言い分を先生が聞き、ブラッシュアップする。「当事者である女性よりも、男性が前に出過ぎて議論が公平ではない。」とハッキリ伝えられるのだ。
この男子学生は、観ていると本当に腹が立つ。自分の非に最後まで気づかず、「持論を押し付けてしまう人がいる。」と他人事のように自分のクラスを評価したりして、「それ、お前が言うか。」と怒りすらこみ上げてくるが、クラスメイトは彼の意見を一旦受け入れ排除はしない。
本当の多様性というものは、まさしくこういうことであり、相手の意見を受け入れ、対立しても議論が建設的なものになるよう努めることにあるのだ。こうした議論の仕方は日本でほとんどされない。対立があっても、平行線のまま終わり、不満は別の場所で悪口として垂れ流される。これでは平和は訪れないとこのドキュメンタリーは語っているように見える。
学校ドキュメンタリーにハズレなし。
本作は是非とも中高生に観てほしいドキュメンタリーである。
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※山形国際ドキュメンタリー映画祭サイトより画像引用