【アフリカ映画】『SEMBENE!』センベーヌ・ウスマン入門

SEMBENE!(2015)

監督:Samba Gadjigo, Jason Silverman
出演:センベーヌ・ウスマン

評価:55点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アフリカ映画開拓者として、センベーヌ・ウスマン映画を観ようと先日クライテリオン社から発売されている『Mandabi』のBlu-Rayを購入しました。折角なので彼の勉強をしようとドキュメンタリー映画『SEMBENE!』を観てみました。本作はセンベーヌ・ウスマン没後5年目を追悼し、彼の経歴をまとめたドキュメンタリーであります。センベーヌ・ウスマンのことはセネガル現地の専門書や「ブラック・アフリカ映画(シネマクシオン)」である程度学んでいた為、正直入門レベルの内容に留まっている本作に物足りなさを感じたものの、デジタル・リマスターされた彼の映画群のアーカイブに観賞意欲が湧きました。

それではもう少し語っていくとしよう。

『SEMBENE!』概要

Meet Ousmane Sembene, the African freedom fighter who used stories as his weapon.
訳:物語を武器にしたアフリカの自由の戦士、ウスマン・センベーンを紹介します。

※imdbより引用

センベーヌ・ウスマン入門

センベーヌ・ウスマンは1923年、ウォロフ族の家庭に生まれる。彼はマルセイユに渡り、働きながら小説家の道を目指していた。彼はフランス領セネガルに思うところがあり、小説で政治的主張を行おうとしていたのだが、当時のセネガルは識字率が低く、また国内で使われる言語も複数あった為、文学に壁を感じていた。そんな時に出会ったのが「映画」であった。ヨーロッパから映画が持ち込まれ、ヨーロッパの連中のオリエンタリズムを満たす対象として扱われていることにアフリカの人々の中には嫌な顔をする人もいた。「アフリカ人のアフリカ人によるアフリカ人の為の映画」を撮ろうとしている時代であり、フランスにいるセネガル人達は独立前から試行錯誤しており、1955年にセネガル初の映画『セーヌ湖畔のアフリカ』を誕生させ、その後『人間、理想、人生』、『モール』などを生み出していった。

センベーヌ・ウスマンは、モスクワに渡り映画の勉強をし、短編映画を撮るようになっていった。視覚的メディアを通してセネガル社会の問題を訴え、それが国際的にも成功し始める。一方で、作品を経るごとにドンドンと政治批判性を強めていき、『ハラ(不能者)』では汚職に明け暮れる官僚が女の呪いで勃起不全となり神にすがるドス黒いブラックコメディに仕上がっていた為、政府に目をつけられ、『チェド』は上映禁止となってしまった。

しかし、センベーヌ・ウスマンは止まることなく、ティアロエの大虐殺を通じてフランスの問題を批判した『Camp de Thiaroye』では第45回ヴェネツィア国際映画祭審査員賞を受賞した。その後もアフリカの割礼文化を批判した『母たちの村』で第57回カンヌ国際映画祭 ある視点部門グランプリ受賞を果たした。

アフリカは日本映画やフランス映画などと違って「アフリカ」と雑に括られガチだ。それは半分合っていたりする。先進国に対する搾取やオリエンタリズムに対する反発や、アフリカ大陸同士助け合って文化発展する動きがあり、実際にブルキナファソを拠点に映画の専門機関が設立され、大規模な映画祭が行われたりする。しかし、多くのアフリカ映画が欧米、まして日本にまで届いていない実情がある。世界各国の主要映画祭のワールドシネマ枠に滑りこむレベルで、ワガドゥグからあまり出られていないと印象がある。それは日本映画にも通じる、どこか内に引きこもってしまっているところがあるのではないだろうか?そう考えた時に、センベーヌ・ウスマンのアグレッシブな活動は、アフリカ映画の父の冠に相応しいものを感じます。

センベーヌ・ウスマンの勉強をするなら、手始めにこのドキュメンタリーからあたりをつけると良いのかもしれません。(個人的に『ハラ(不能者)』はオススメです。)

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