【アフリカ映画】『U-Carmen eKhayelitsha』金熊賞獲ったのに日本未公開?コサ語で語られる新しいカルメン

U-Carmen eKhayelitsha(2005)

監督:マーク・ドーンフォードメイ
出演:Pauline Malefane,Lungelwa Blou,Andile Tshoni etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

最近アフリカ映画研究サボっているんじゃない?

とブログの愛読者に怒られそうですが、震え声で「ちゃんと観てますよ」と答えたい。今回、南アフリカのユニークな作品を観てみました。『U-Carmen eKhayelitsha』は2005年のベルリン国際映画祭で『真夜中のピアニスト』や『隠し剣 鬼の爪』、『パラダイス・ナウ』に『太陽』を抑えて見事金熊賞を受賞した作品。しかしながら、日本では全く公開された形跡がなく、この記事を書いている時点でFilmarksにも誰一人レビューを挙げていない謎の存在でした。この際、ブンブンがこの霧を切り拓いてみようと思います。

『U-Carmen eKhayelitsha』あらすじ


A version of Georges Bizet’s Carmen, set in a modern-day South African township.
訳:現代の南アフリカの町を舞台にしたジョルジュ・ビゼーのカルメンのバージョン。
imdbより引用

アフリカのオペラ監督がカヤリシャを舞台に変えた!

イギリス生まれのマーク・ドーンフォードメイ監督は、イギリスの劇場に25年従事した後、ロンドンのウィルトンズ・ミュージック・ホールを拠点にブルームヒル・オペラを設立しました。そんな彼は南アフリカ共和国に魅力を抱き、2000年にTEDでも講演経験のある名指揮者チャールズ・ヘイゼルウッド(TED講演「信頼がつくるアンサンブル」はこちら)と共にケープタウンにDimpho di Kopaneという団体を設立しました。そんな彼の初映画にして、このDimpho di Kopaneと共に創り上げた本作はコサ語で語り直す『カルメン』となっています。ケープタウンにあるカヤリシャはアパルトヘイトによる黒人向け隔離地区として1985年に作られた場所。ヨーロッパ圏におけるユダヤ人隔離所ゲットーに近い扱いを受けている場所だ。そこで描かれる『カルメン』は単にアフリカのエキゾチズムやカルメンの語り直しの珍しさに胡坐をかくことなく、映画という拡張された舞台を最大限に活かし、『カルメン』の魅力を引き出すことに成功した傑作でありました。

本作について語る前にざっくりと『カルメン』についてお話ししましょう。『カルメン』はジョルジュ・ビゼーによって作曲され、フランスで初演されたオペラです。タバコ工場で働くロマのカルメンに恋をした伍長ホセが彼女の魔性さに惹かれていくのだが、闘牛士エスカミーリョに恋の座を奪われてしまい、気が狂ったホセは最終的にカルメンを殺してしまうという内容のお話しです。『カルメン』は公開当時、さほどヒットはしなかったのですが、後に再注目され、今や遠く離れた日本で本作の楽曲がバラエティ番組等で度々使用されるほど親しまれています。

そんな『U-Carmen eKhayelitsha』は主演のカルメンが稽古場にやってくる所から始まる。オペラ開幕前のチューニングの旋律が漂う中、カルメン女優は稽古場に「メンゴ、メンゴ」遅刻して入り、帰り道に進行を邪魔する車に対して「あたいらを怒らせんでヨ!」とキレ始める日常が描かれる。南アフリカにおけるチューニングは痴話喧嘩というところにユニークさを感じる。そして本編が始まるのだが、耳をすませると違和感を抱く。イタリア語に聴こえるセリフの随所に、「ツッ」「コッ」といった破裂音が響き、『カルメン』の旋律に一風変わったアクセントがかかるのです。曲自体は耳馴染みある《ハバネラ(Habanera)》だったりするのですが、時折リズミカルにコサ語特有の音が肉付けを図るのです。

そして物語はタバコ工場で働く娼婦さながらの魔性の女カルメンに恋をした警察官ホセの物語だと分かってくる。9割型曲で進行するほぼ『シェルブールの雨傘』方式で進行するのだが、南アフリカの現代劇として『カルメン』の持つ傑作のイメージに高慢になることを回避しようとしている。自然体でありながらも机や鉄格子、土地の力を120%
活用してオペラの躍動感を滲み出していくところは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』に通じるところがある。

警察の前に現れるカルメンが魅惑の舞で警察官を翻弄し、待てや!と手を伸ばす彼らのコミカルさ、酒場でビリヤード場の上で踊り狂う様の高揚感は堪らないものがあります。

日本ではオペラというと1位2位を争うように『カルメン』という単語が出てくるのだが、何故か未だに日本未公開。これだけユニークな『カルメン』はbunkamura ル・シネマあたりで上映されてもいいのではと思ったブンブンでした。

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