【ネタバレ】『パッセンジャー』惜しいSF心理劇

パッセンジャー(2016)
Passengers

監督:モルテン・ティルドゥム
出演:ジェニファー・ローレンス、クリス・プラット、マイケル・シーンetc

評価:60点

アメリカ映画界は厳しい世界だ。世界各国から凄腕監督を発掘し、たった数作しか撮っていないのに、いきなりビッグバジェットの作品を任せる。これで成功すれば、一気に名声を手に入れるが、失敗したら即業界から追放だ。モルテン・ティルドゥム監督の場合、『ヘッドハンター』でハリウッドでリメイクが企画されるほどの一躍注目を集め、ハリウッドデビュー作『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でいきなりアカデミー賞8部門ノミネートし、脚色賞受賞まで導いた。一気に名声を集めた彼は次の作品でジェニファー・ローレンス、クリス・プラット主演のSF映画を任されたのだが、、、ここで彼は地に堕ちた。興行収入こそ黒字だったものの、批評家にボロクソに叩かれてしまったのだ。それによって、彼の映画作りはストップしてしまう。Amazonがジャック・ライアンのテレビシリーズ製作の案件をもってきたお陰でなんとか首は繋がっているが、瀕死状態である。そんな問題作『パッセンジャー』を観てみた。

『パッセンジャー』あらすじ

別の惑星へ移住することとなった人類は、巨大な宇宙船に乗り込み、長い冬眠に入った。しかしながら、宇宙船の故障で、90年早く目覚めた男がいた。彼は90年いかに孤独と向き合うか考えるのだが…

蓋を開ければ心理SF映画だった

本作が酷評された理由はよく分かる。恐らく第一に監督自身、SFになんぞあまり興味なかったということだ。そして、アンドレイ・タルコフスキー(『惑星ソラリス』)やクレール・ドゥニ(『HIGH LIFE』)が宇宙船という閉ざされた空間を活かして人間の心理に迫ったように、彼も宇宙船での生活を通じて夫婦生活というものを描こうとした。しかしながら、ジェニファー・ローレンスとクリス・プラットを起用しておきながらそれはないだろうと、上からお達しが来たのだろうか、取ってつけたような後半のディザスターシーンが折角の心理ドラマを台無しにしてしまった。

クリス・プラット演じるエンジニアは、たった一人90年早く冬眠から目覚めてしまう。最初は再冬眠を試みようとしたり、地球に連絡を取ろうとするのだが、どうにもならないことに気づき、自由気ままに豪遊する。しかし、相手はバーにいるロボットのみ。退屈で絶望するのだ。そんな彼は、冬眠されている美女に惚れてしまう。忘れようとしても、忘れられない。そして、冬眠マシンを破壊し、彼女を起こしてしまうのだ。そして、事故に見せかけてパートナーとして共同生活することとなり、やがて夫婦となる。

ここからが重要で、本作は夫婦が時の流れとともにどう心理が動いていくかを洞察している。最初は、イチャイチャし、熱々カップルだ。お互いに認め合い、目の前の問題を解決しようとする。しかしながら、やがて倦怠期が訪れる。そして離婚の危機がやってくる。そのきっかけとなるのが、男の犯した過ちだ。お互いに尊重しなくなり、全てがどうでもよくなり事実が暴露され、火に油を注ぐ。だが、そこに強烈な試練が待ち受け、それによって大きな傷が癒えていく。

本作はよく、『タイタニック』だと言われているが、それは違うと思う。『タイタニック』は階級の違う者の儚い愛が無残にも引き裂かれる物語となっている。一方、本作は、階級差は特に言及されておらず、また愛が引き裂かれる映画ではなく愛が育まれ朽ちて、また返り咲く映画となっている。ラストの、こことぞ言わんばかりのVFXの乱用っぷりにはある意味背筋が凍ったが、夫婦生活について宇宙船という閉鎖空間を用いて向き合ったこの語り口は嫌いではない。

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