プールサイドマン(2016)
POOLSIDEMAN(2016)
監督:渡辺紘文
出演:今村樂、渡辺紘文etc
もくじ
評価:85点
第29回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門にて作品賞を受賞した謎の映画「プールサイドマン」がおとといから2週間限定で公開されている。監督の渡辺紘文は、前作の「七日」で全編台詞なし・大きな事件なしの非常にユニークな作品を撮っており、映画芸術寄りの邦画シネフィルの間で注目されている監督だ。先日も、東京国際映画祭で新作「地球はお祭り騒ぎ」の上映を決め、また一段と巨匠への道を進んでいる。
そんな今話題の監督・渡辺紘文の「プールサイドマン」を新宿武蔵野館で観てきましたよ!
舞台挨拶では、渡辺兄弟と主演の今村樂が登壇されていました。
「プールサイドマン」あらすじ
プール監視員・水原勇介は、友だち0。職場で浮きまくっている男。そんな彼は、日々の退屈さを紛らわす為にヨーロッパや中東で起きているテロのニュースを聴き、映画館で激しいアクションを観る。そんな彼のプライベートを脅かす事件が訪れようとしていた…静の「七日」、動の「プールサイドマン」
先週観た同監督の「七日
」と比較すると面白い。「七日」は何も起きない日々が綴られる「静」の映画だが、この「プールサイドマン」はドラマティックな「動」の映画だ。無論、主人公が喋らないのは共通している。
栃木の田舎町で淡々とプールの監視員をする男。彼は毎日、ヨーロッパのテロのニュースを家で聴き、アクション映画を観にいくのを生き甲斐にし、退屈で同僚からもハブられている職場を生き抜いていた。
そんな彼が、ある日を境に絶望的なまでにつまらない男と行き帰りを共にしないといけなくなる。男はベラベラと社会の愚痴を言う。嫌だ嫌だと顔をしかめる、オーラで訴える今村樂扮する主人公を観て、「私もあったわー高校時代」と共感しドンドン物語へと没入していった。
こう、ウザイ人って実は周りからもハブられている。よく映画を観ていると、その男は職場の人から少し距離を置かれていることに気づく。男は、話し相手、見せかけの友人を作りたいという潜在意識のもと、無口な主人公をカモとして、話のサンドバッグとして活用するのだ。無口な主人公は気持ちを表面に出すことが出来ない、内心「このクズが!」と思っているのに行動に移せない感じ、ブンブンも同じ経験をしているだけに胸が締め付けられるような思いだった。それを表情だけで演出する今村樂が本当に素晴らしかった。彼は本作で映画デビューしたとのことだが、今後伸びる俳優であるとブンブンは思った。
そして、驚くべき事に本作はコメディ映画である。車内で、男は主人公にベラベラと持論を話す。「俺、ワンピース好きな人と話し合わんわ」「すたみな太郎知ってる!マジですげぇんだ!」と主人公の気持ちなど1mmも考えずにトークを爆走させていく地獄。持論がドンドン矛盾していく男の馬鹿馬鹿しさ。当事者としては非常に厭だが、映画館という99%安全区域から眺める修羅場は爆笑ものでした。実際に、客席からは笑いが時折漏れ、「あらまぁ」「そんなわけないだろう」といったヤジも飛ぶある種発声上映に近い雰囲気で楽しめました。
※本作を観た人なら誰しも行きたくなるであろう「すたみな太郎」の公式サイト
「スイス・アーミー・マン」との意外な関係
本作の一見難解で陰鬱な物語からある形がブンブンの頭に浮かび上がってきた。それは「スイス・アーミー・マン
」だ。死体に男が話かけ続けることで、自殺しようとしていたその男は正気を保とうとする話。
まさに本作も構造は似ている。テロや暴力を求めるが、感情を抑制し動けずにいる男が、赤裸々に心を解き放つ者との対話(一方的ではあるが)を通じて、人生の在り方を見つけ出す話になっているのです。
」からかなりインスパイア受けているだろう。特に、「スイス・アーミー・マン」は途中に挿入されるモンタージュや、画面の作り方が非常に「仮面/ペルソナ」と似ている。
本作や「スイス・アーミー・マン」に嵌まった方は、是非ともTSUTAYAで「仮面/ペルソナ」を観て欲しい。
そして、難解で俺には分からないよ!と言う方は、是非とも町山智浩の映画ムダ話をダウンロードして聴くことをオススメします。
※映画ムダ話:町山智浩の「一度は観ておけこの映画」14 イングマール・ベルイマン監督『仮面ペルソナ』(66年)。『複製された男』『ファイト・クラブ』『マルホランド・ドライブ』などに強烈な影響を与えた名作。
とにかく、「プールサイドマン」は嫌な上司に悩まされている方必見、DVD化も配信も期待できないので是非劇場でWATCHしてみてください。
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