帰れない山(2022)
原題:Le otto montagne
英題:The Eight Mountains
監督:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン、シャルロッテ・ファンデルメールシュ
出演:ルカ・マリネッリ、アレッサンドロ・ボルギ、フィリッポ・ティーミ、エレナ・リエッティetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第75回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した『帰れない山』が日本公開された。これが独特な時間の使い方をする作品であった。
『帰れない山』あらすじ
イタリアの作家パオロ・コニェッティの世界的ベストセラー小説を映画化し、2022年・第75回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した大人の青春映画。
北イタリア、モンテ・ローザ山麓の小さな村。山を愛する両親と休暇を過ごしに来た都会育ちの繊細な少年ピエトロは、同じ年の牛飼いの少年ブルーノと出会い、一緒に大自然の中を駆け巡る中で親交を深めていく。しかし思春期に突入したピエトロは父に反抗し、家族や山と距離を置いてしまう。時は流れ、父の悲報を受けて村を訪れたピエトロは、ブルーノと再会を果たす。
「マーティン・エデン」のルカ・マリネッリが主人公ピエトロ、「ザ・プレイス 運命の交差点」のアレッサンドロ・ボルギが親友ブルーノを演じた。メガホンをとったのは「ビューティフル・ボーイ」で知られるベルギーの俊英フェリックス・バン・ヒュルーニンゲンと、「オーバー・ザ・ブルースカイ」などで脚本も務める俳優のシャルロッテ・ファンデルメールシュ。実生活で夫婦でもある2人が共同で監督・脚本を務めた。
時を共有し、時には拒絶し
最近の映画は、それもハリウッド大作だけじゃないと思うのだが、時間に縛られて窮屈に感じるような作品が多くなってきたように思える。限られた時間の中でこなすべきタスクを処理している感が透けて見えるせいだろう。それを考えた時、本作は豊穣な時間の使い方をしている。二人の男の幼少期から物語が始まる。山間部と会話で出てくるトリノを中心に、誰とどこで時間を共有するかを巡る話が展開される。家族との旅行は拒絶する。相棒との山小屋作りは時間をかけて共有する。インドに行ってしまっても、電話で繋がる。数年規模の行間が開くこともある。映画はまるで人生のような時間の使い方をするのだ。未来が見えない中、どのように人生が変わるか分からない状況下で、誰と時間を共にするかを選択する。それが十何年か後の伏線として機能する。あるいは、突然終わりを迎えることもある。映画は自然の流れに任せるように二人の男の生き様を雄大な自然をバックに描いていく。ナレーションが多いので、観る小説といった印象が強い作品ではあるが、2時間半豊かな時を過ごせた気分になった。
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※映画.comより画像引用