『ダークグラス』ダリオ・アルジェントが元気すぎてニッコリ

ダークグラス(2021)
原題:Occhiali neri
英題:Dark Glasses

監督:ダリオ・アルジェント
出演:イレニア・パストレッリ、アーシア・アルジェント、Andrea Gherpelli、マリオ・ピレッロ、マリア・ロザリア・ルッソetc

評価:85点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

ダリオ・アルジェント10年ぶりの新作『ダークグラス』がついに公開された。前作『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』は手慣れていない3D描写が気になってそこまで楽しめなかったのだが、10年の沈黙を経て現れた作品は、元気ありあまるものとなっていて感動したのであった。

『ダークグラス』あらすじ

「サスペリア」「フェノミナ」などで知られるイタリアホラー界の巨匠ダリオ・アルジェントが、前作「ダリオ・アルジェントのドラキュラ」以来10年ぶりに手がけた監督作。事故で視力を失ったヒロインがサイコパスな殺人鬼に脅かされる、“見えない恐怖”を描く。

イタリア、ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生する。殺人鬼の4人目のターゲットになってしまったコールガールのディアナは、ある夜、執拗に追いかけられた末に、車が衝突する大事故に遭う。一命はとりとめたものの両目の視力を失ってしまったディアナは、同じ事故に巻き込まれて両親を亡くした中国人少年のチンとの間に特別な絆が生まれ、2人は一緒に暮らすことになる。しかし、そんな彼女たちを殺人鬼が付け狙う。

主人公ディアナを、「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」でイタリアのアカデミー賞と呼ばれるダビド・ディ・ドナテッロ賞の主演女優賞を受賞したイレニア・パストレッリが演じた。アルジェント監督の娘アーシア・アルジェントも、ディアナを支える歩行訓練士役で共演。

映画.comより引用

ダリオ・アルジェントが元気すぎてニッコリ

ダリオ・アルジェントの職人技とも呼べるシークエンスから物語は始まる。車に乗った女は、群衆が空を見上げている不思議な光景が気になる。何組も空を見上げているのだが、車内からだと正体は分からない。あまりに気になるので車を降りる。空を見上げると日食が始まっていた。好奇心に負けて車から降りるまでをセリフなし。カットと視線の動きで魅せていく。まずは、そこに惹き込まれる。

映画は最小手数を攻めた作りとなっており、景気良くホテルから出た女の喉元が斬り捌かれ、路上へと放置される。そして今回のターゲット・ディアナへと物語の焦点は定まる。白いバンに追跡される中で壮絶な交通事故が起きる。彼女は失明する。彼女は事故に巻き込まれ、両親を失った少年チンを匿うこととなる。自分の事故の罪悪感、そして彼を警察に渡したら孤児になってしまうことへの悲しみから、目が見えないにもかかわらず彼と共に警察や白いバンの男から逃げようとするのだ。

通常、失明をサスペンスのギミックとして使用する場合、失明者の背後に敵を配置させ、観客を神の視点ならではの恐怖へと誘うケースが王道だろう。しかし、本作はひたすらパワープレイなところが興味深い。サスペリアのテーマをRemixさせたような異様にテンションの高い音楽、そして死体を観ても動じず、水中の蛇を鷲掴みにし、銃まで発砲する少年チンくんの逞しさが爆笑を呼び起こし、疾走感あふれる物語を形成していくのである。今回は、ジャンル映画としての外し芸を魅せる作品へと仕上がっており、例えばダムの機械に対して意味ありげなセリフを言う場面があるのだが、想定される敵をダムの水圧で倒すようなことはせず、斜め上を行く水責めを持って来るようなことを行っている。

そのため、ディアナサイドも敵もしぶとい。脇役はあっさり滑稽な死に方をする一方で、なかなか決着がつかない物語となっているのだ。これで90分切っているのが驚き、濃厚な映画体験であった。

※映画.comより画像引用