『アウシュヴィッツの生還者』恋人に会うために私は拳を振るう、痛みを宿した

アウシュヴィッツの生還者(2021)
The Survivor

監督:バリー・レヴィンソン
出演:ベン・フォスター、ヴィッキー・クリープス、ビリー・マグヌッセン、ピーター・サースガード、ダニー・デヴィート。ジョン・レグイザモetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2023/8/11(金)より『アウシュヴィッツの生還者』が公開される。本作は、『グッドモーニング、ベトナム』や『レインマン』で知られるバリー・レヴィンソン監督が、ボクサーとしてホロコーストを生き延びた男の実話ものを映画化した作品だ。今回、キノフィルムズさんのご厚意で一足早く鑑賞したので感想を書いていく。

『アウシュヴィッツの生還者』あらすじ

「レインマン」の名匠バリー・レビンソンが、アウシュビッツからの生還者ハリー・ハフトの半生を息子アラン・スコット・ハフトがつづった実話をもとに映画化。

1949年、ナチスドイツの強制収容所アウシュビッツから生還したハリーは、アメリカでボクサーとして活躍しながら、生き別れた恋人レアを捜していた。レアに自分の生存を知らせるため取材を受けたハリーは、自分が生き残ることができたのはナチス主催の賭けボクシングで同胞のユダヤ人たちに勝ち続けたからだと告白し、世間の注目を集める。しかしレアが見つかることはなく、彼女の死を確信したハリーは引退。それから14年の歳月が流れ、別の女性と新たな人生を送るハリーのもとに、レアが生きているという報せが届く。

「インフェルノ」のベン・フォスターが主演を務め、「ファントム・スレッド」のビッキー・クリープスが共演。

映画.comより引用

恋人に会うために私は拳を振るう、痛みを宿した

哀愁を抱えながら試合に臨むボクサー・ハリー(ベン・フォスター)。彼の顔には翳りがあり楽しんでボクシングをしている様子は見受けられない。実は彼が強いのは、ホロコースト時代にナチスの賭けボクシングで、生き延びるため必死になっていたからである。だから彼が拳を振るう時、同胞の顔が浮かぶのだ。しかし、彼はアメリカで拳を振り続ける。それは生き別れた彼女に会うためであった。自分がボクシングで有名になれば彼女に会えるかもしれないと拳を振り続けていたのだ。毎年、日本でもホロコーストをテーマにした作品が多数公開されるが、まだまだ映像化されていない物語があるんだなと思うほどユニークな語り口であった。

『スフィア』のようなSF映画でも人間心理を描くため、じっくり腰を据えた語り口を展開する印象のあるバリー・レヴィンソン監督だけあって、胸熱なボクシングドラマではなく、暴力を振るうことで過去と対峙し、その中で生じる葛藤が少しずつ未来を切り開いていく作劇となっている。一つ一つのハリーの佇まいから人生の深みが染み出してきており、また空間も黒を基調とし、翳りを強調していくため、観ているうちに彼の痛みが観客の心にまで伝わってくるものとなっている。

アメリカパートが暗めの色調で描かれているため、過去編を白黒で描く必要があったかなと疑問に思いつつも観応えある作品に仕上がっていた。バリー・レヴィンソン監督衰え知らずである。

※映画.comより画像引用