【第36回東京国際映画祭】『タタミ』極限状態での柔道

タタミ(2023)
TATAMI

監督:ザーラ・アミール・エブラヒミ、ガイ・ナティブ
出演:アリアンヌ・マンディ、ザーラ・アミール・エブラヒミ、ジェイミー・レイ・ニューマンetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第36回東京国際映画祭コンペティション部門に『SKIN』監督×『聖地には蜘蛛が巣を張る』俳優共作が出品された。ここ数年は、洞窟さん主催のみんなの星評に参加する。Twitter民の個性的な星評が集結し、まず意見が一致することはないのだが、珍しく全会一致レベルで「これ観客賞じゃね?」となる大傑作となっていた。

『タタミ』あらすじ

『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)でカンヌ映画祭女優賞を受賞したザル・アミールとイスラエル出身のガイ・ナッティヴが共同で監督した作品。イスラエル選手との対戦を避けるため、イラン政府から棄権を強要された女子柔道選手とコーチとの葛藤を描く。

第36回東京国際映画祭より引用

極限状態での柔道

イラン出身の柔道家が国際試合の場で勝ち進む。そこにイラン政府から棄権しろとお達しが来る。マネージャーも保身から「棄権しよう」と言うが、スポーツマンシップに反するので彼女は無視しようとする。するとイラン政府からの圧が段々と強くなっていき、家族の身にも危険が及ぶ。なんといっても群像劇としての完成度が高い。スタジアムの設計を活かした逃避行の面白さ、選手だけでなく運営側にもフォーカスが当たり、規則によるデッドロックで事態に気付きながらも何もできないもどかしさが、的確なライティングの中描かれる。ここでいう的確なライティングについてもう少し語る。映画はドキュメンタリータッチのように、登場人物に迫っていく。だが、ドキュメンタリーにはならないような黒と白の境界を明確にしたライティングを維持して描かれる。ハリウッドやヨーロッパのお金がたくさんかかった映画のような豊かなライティングのまま撮り続けているのだ。

これが「映画を観ている」高揚感を演出し、終始ハラハラドキドキしながら彼女の結末を見守る空気を作り出す。現実におけるスポーツの試合は映画と違って想定外が起きやすいものだ。その想定外がどうなるのか?ドキュメンタリータッチはそれを醸す、でも一方で劇映画のような高揚感を持っている。そして思わぬ展開を迎えていく。これは日本一般公開してほしいし、何かしらの賞を獲ってほしい作品である。

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※第36回東京国際映画祭サイトより画像引用