『草の響き』狂ってしまわぬように走り続ける

草の響き(2021)

監督:斎藤久志
出演:東出昌大、奈緒(本田なお)、大東駿介、Kaya、林裕太、三根有葵、利重剛etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

一時期話題になっていた『草の響き』を観た。自宅療養中の今、観ると精神的にくるものがあるのだが、面白いショットが多い作品であった。

『草の響き』あらすじ

「そこのみにて光輝く」「きみの鳥はうたえる」などの原作で知られる夭逝の作家・佐藤泰志の同名小説を、「寝ても覚めても」の東出昌大主演で映画化。心のバランスを崩し、妻と一緒に故郷・函館へ戻ってきた工藤和雄。精神科の医師に勧められ、治療のために街を走り始めた彼は、雨の日も真夏の日もひたすら同じ道を走り続ける。その繰り返しの中で、和雄は徐々に心の平穏を取り戻していく。やがて彼は、路上で知り合った若者たちと不思議な交流を持つようになるが……。慣れない土地で不安にさいなまれながらも和雄を理解しようとする妻・純子役に「マイ・ダディ」の奈緒、和雄に寄り添う友人役に「明日の食卓」の大東駿介。「空の瞳とカタツムリ」「なにもこわいことはない」の斎藤久志が監督を務めた。

映画.comより引用

狂ってしまわぬように走り続ける

スケートボードで家から飛び出し、スーっと疾走していく。街並みを走り続ける。爽快な長回しと、バスケットボールの試合中に転んでしまう、25m泳ぎきる前に止められてしまうなどといった静止の運動を交互に手繰り寄せながら、行き詰まった人生を捉えていく。共鳴するように学生の生活と、自律神経失調症を患い自宅療養中の男の生活が交差していく。方や崖から虚空への跳躍を行い、方や柵を超えていく。理論的な映画になっているのだが、後者にどこか引っかかるものがある。確かに、あのラストは爽快ではあるの。グザヴィエ・ドラン『MOMMY/マミー』のラストが好きであれば刺さるような演出だ。しかし、柵ごえと疾走の両方を採用するのは、欲張りすぎなような気がする。また、この柵越えは崖からの跳躍を受けての演出となっているのだが、こちらは真横から落下を捉えている。関連させるためには、崖からの跳躍も柵越えで捉え、反復を強調した方が良かったような気がした。しかしながら、東出昌大の無気力で走ることしかできない、もとい走ることで陰鬱さを忘れようとする演技は本物かと思うほどに忠実であり、いくらなんでもファンタジーすぎる病院描写にある程度の説得力をもたらしていた。

ちなみに、処方された薬でオーバードーズは狙っても望む結果に終わらないことは言っておきたい。下手すれば、自分の記憶の外側で恐ろしい活動をする、恐怖体験に繋がるので、本作に感化されたとしても辞めた方が良い。

※映画.comより画像引用