『Master Gardener』罪を背負う男の吐露先は、庭、紙、それとも女?

Master Gardener(2022)

監督:ポール・シュレイダー
出演:ジョエル・エドガートン、シガニー・ウィーバー、クインテッサ・スウィンデル、イーサイ・モラレスetc

評価:55点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

魂のゆくえ』、『カード・カウンター』と観ていくうちにポール・シュレイダー監督の特徴のようなものが見えてきたこの数年。彼は一貫して葛藤の避雷針を探すような物語を作っている。演出の中心にあるのはロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』であり、脚本を担当した『タクシー・ドライバー』を始め、『ライト・スリーパー』、『カード・カウンター』では机に向かって内なる闇を吐露しようとするモチーフが描かれている。『魂のゆくえ』に関しては『田舎司祭の日記』そのものをアップデートしたような作品に仕上がっている。さて、新作『Master Gardener』はどうだろうか?予告編を観ると、早々に日記を書き始めている。実際に本編を観たところ、『田舎司祭の日記』における物書きシーンに命を賭けているような作品に仕上がっていた。ひょっとすると遺作にする気なのかと思う程の執着を感じた『Master Gardener』について書いていく。

『Master Gardener』あらすじ

A meticulous horticulturist who is devoted to tending the grounds of a beautiful estate and pandering to his employer, the wealthy dowager.
訳:美しい屋敷の敷地を手入れし、雇い主である裕福な太后に迎合することに専念している几帳面な園芸家。

IMDbより引用

罪を背負う男の吐露先は、庭、紙、それとも女?

庭師を束ねる管理職的立場として生きる男ナーヴェル・ロス(ジョエル・エドガートン)。彼はあることを隠すように丁寧な仕事を心がけていた。そんなある日、新しく見習いの女が入ってくる。それにより、運命の歯車が回り始めてしまう。本作では罪を背負った男が庭、紙、若い女、3つの避雷針の中から葛藤を吐露する器を選んでいく話である。彼は過去に、重大な罪を背負っている。贖罪のために庭仕事に打ち込んでいる。それは自分の崩壊した人生をもう一度組み立てるような作業で、時間をかけながら完璧なもうひとつの人生を作り出していく。一方で、過去から逃れることはできない。心の中に罪意識は残り続け、庭仕事をしていても癒えることがない。そんな葛藤を和らげるために、夜な夜な日記を書く。しかし、見習いの登場により過去が暴かれてしまう。そうなると今度は彼女がナーヴェル・ロスの痛みを引き受ける立場となってくる。

『魂のゆくえ』、『カード・カウンター』では印象的な演出でもって禁欲的行動とその中にある葛藤を紐解いていった。本作ではそのフェーズは終わりを遂げ、ストーリーテリングに集中したものとなっている。しかし、若い女性をケアしてくれる存在として消費してしまっていることに対する批判的な目線が希薄なため、安易な物語のようにも思える。『カード・カウンター』で魅せた、ファム・ファタールすら拒絶するぎこちなさで内なるものと対峙する作劇の対極を描こうとしているようにも思えるが、そこにはあまり慧眼となるものはなかった。

ポール・シュレイダーなので部屋の翳り描写が相変わらずカッコいいものの、そこまでハマれずじまいであった。


▲先日、ツイートしたポール・シュレイダーの謎の図翻訳、40万インプレッションぐらいいっていてビビった。

※MUBIより画像引用

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