『【推しの子】』人は表面的なものしか見ない、例えそれを操るアイドルだとしても。

【推しの子】(2023)

監督:平牧大輔
原作:赤坂アカ、横槍メンゴ
出演:高橋李依、大塚剛央、伊駒ゆりえ、潘めぐみ、石見舞菜香etc

人は表面的なものしか見ない、例えそれを操るアイドルだとしても。

2023年上半期に流行ったアニメ『【推しの子】』を観た。本作は赤坂アカ、横槍メンゴの同名漫画のアニメシリーズ化である。第一話を観たところ、ロマコメ、異世界転生もの、アイドルものとジャンル横断的に駆け抜けながら業界の闇を描いていく手法の面白さにに魅了され、珍しく最後まで鑑賞することができた。本作は良くも悪くも「マルチバース」的物語展開が特徴となっている。「マルチバース」的物語展開とは、様々なジャンルを横断することで思わぬ化学反応を引き起こす手法だと思っている。本作の場合、最初こそ片田舎町の医者が、推しのアイドルを匿うバレるかバレないかロマコメから始まるの。しかし、気がつくと異世界転生ものに近い急展開を迎え、そこからエンターテイメント業界の暗部を捉えていく物語となっている。アニメでは毎回、様々な問題提起を行う。なぜ、アイドルはグループやカップリングで売り出すのか?アイドルが個性を出すために必死になるわけ、子役の価値、炎上にリアリティショーとアプローチは多彩だ。少し芸能界にいたこともあるので、この手の話は誇張が多いのかなと思って観ていたのだが、実際に自分の身近でもあった話が多く、その解像度の高さに圧倒された。と同時に街中で小学生が主題歌「アイドル」を歌っていたり、本作について意気揚々と語っているのを観ると、今の子どもってメンタル強いなーと思ってしまうのであった。

流行のジャンルや話題となっている社会問題を貪欲に取り込むスタイルは、物語にノイズを与える欠点もあり、本作はそれに引っ掛かっている。つまるところ、主人公の目的が中盤から無視され、脱線に脱線を重ねていくのである。漫画のように連続ものであればまだしも、10数話の1クールでやるには上手く一つの線として着地して欲しいものの、最終回でも物語の種まきを行っており、振り返ってみれば、第一話がピークで竜頭蛇尾となってしまったかなと感じた。

ただ、そう入っても根幹にある裏テーマ「人は表面的なものしか見ない、例えそれを操るアイドルだとしても。」を最終回まで維持できたのは良かった。1年で一本ぐらいしかアニメシリーズを完走できない私をここまで夢中にさせただけにとても力強い作品だったと思う。

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