【特集カンヌ国際映画祭】『LEILA’S BROTHERS』ワイらの生活、詰んでるワイ

LEILA’S BROTHERS(2022)

監督:サイード・ルスタイ
出演:タラネ・アリシュスティ、Saeed Poursamimi、ナヴィド・モハマドザデetc

評価:40点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

東京国際映画祭は色々問題抱えており、釜山国際映画祭と比較してしまうと弱い印象を受ける。しかし、未来の注目監督を発掘できていないわけではない。例えば、『アンカット・ダイヤモンド』サフディ兄弟や『逆転のトライアングル』リューベン・オストルンドを初期作品の段階からチェックしている。さて、2022年のカンヌ国際映画祭にサプライズとして入った作品がまさしく東京国際映画祭が見出した逸材サイード・ルスタイによるものだった。彼は、『ジャスト6.5 闘いの証』で東京国際映画祭コンペティション部門で、最優秀監督賞と最優秀男優賞(ナビド・モハマドザデー)を受賞している。国際映画祭に出品されるイラン映画は、アスガー・ファルハディ系の重いドラマが乱立してしまいマンネリ化を引き起こしていた。その中に現れたサイード・ルスタイは東映ヤクザ映画のような暑苦しさと、観る者を惹き込むアクションを提示し、新風を吹かせた。新作『LEILA’S BROTHERS』も似たような演出が確認でき、イラン映画界を新しい次元へ導く存在だと感じた。個人的には苦手な監督であるが、注目したいところである。それでは感想を書いていく。

『LEILA’S BROTHERS』あらすじ

At 40 years old, Leila has spent her whole life taking care of her parents and her four brothers. The family argues constantly and is crushed by debts, in a country caught in the grip of international economic sanctions. As her brothers are trying to make ends meet, Leila formulates a plan.
訳:40歳のレイラは、両親と4人の弟の面倒を見ることに人生を費やしてきた。国際的な経済制裁を受けるこの国で、一家は口論が絶えず、借金に押しつぶされそうになっている。そんな中、レイラはある計画を立てる。

MUBIより引用

ワイらの生活、詰んでるワイ

「仕事は終わりだ!撤収!撤収!」

工場長と思しき人物が作業を強制終了して回る。騒音響く現場なので、伝達までに時間がかかるが、ドンドンと機械が止まっていく。すると、暴動のようなものが発生し、あたり一面戦場と化す。右も左も分からぬまま、工場の人々は波を形成し、飲み込まれていく。このオープニングが強烈だ。前作では、逃走劇の末に穴に落ちるアクションが見ものだったが、本作でもファーストインプレッションに力が入っている。

映画は結婚式を中心に金策の物語へと発展していく。デパートのトイレ清掃しながらコソコソ銭を稼ぐ者、マルチ商法に手を染めているようだ。まるで2chの書き込みスレッドのような、人生詰んでいるような小話が複雑に絡み合っていく。冒頭こそ良かったものの、後は160分近く顔のアップを切り返す停滞した対話が続き、竜頭蛇尾な映画に思えてくる。確かに、パーティ場面のリッチな高低差を活かした視線の交わりと、貧相な画の対比によって閉塞感ものを紡ぐ演出は理解できる。しかし、それにしても退屈な画が多いと辛いものがある。それだったら、『ジャスト6.5 闘いの証』のように荒々しい戦い路線で描いても良かったんじゃないかなと感じずにはいられない作品であった。

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※MUBIより画像引用