【ブンブンシネマランキング2021】新作部門1位はあのカザフスタン映画!

【ブンブンシネマランキング2021】新作部門

さて、今年も恒例のこの企画がやってまいりました。

「ブンブンシネマランキング」!

2021年は正直自分でも驚く程に色々ありました。本業の方は、プロジェクトマネージャーとして悩むことが多く、苦手な先輩からパワハラを受けていたこともあり6月に鬱状態となりました。一方で、映画の方は『コントラ/KONTORA』でパンフレット寄稿とトークショーを行い、またcinemas PLUSさんから「うちで書いてみない」とスカウト受け、映画ライターになりました。また某映画会社のお手伝いもすることができました。雑誌寄稿こそ叶わなかったが、映画会社の業務に関われたところは非常に大きかったなと思います。

【2021年にcinemas PLUSさんに寄稿した記事】
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映画に関しては、ハリウッド大作がすっかり長くてつまらないものが多くなったのに対し、日本映画やいわゆるワールドシネマが次々と面白い作品を発表し、映画祭も席巻していた。アメリカやフランスが支配していた映画界もカザフスタンやルーマニア、コソボが主導権を握り始めてきたといえます。

さて、今年もベストについて語っていきます。

※タイトルクリックすると詳細作品評に飛べます。

20.アリサカ(ARISAKA)

監督:ミカイル・レッド
出演:マハ・サルバドール、モン・コンフィアード etc

修羅場映画のスペシャリスト、フィリピンのミカイル・レッドが放つ最新作は、銃撃を受けるパトカーという狭い空間での脱出劇に始まり、中盤以降は復讐譚西部劇へと発展する。伝説の有坂銃を片手に逆襲する、そしてそのままもつれ込み肉弾戦へと発展していく姿はどこか漫画のような滑稽かつ熱いものを感じた。個人的に映画泥棒修羅場『レコーダー 目撃者』と併せてミカイル・レッド特集を組んでほしいなと思う。彼こそが修羅場映画のスペシャリストだ!

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19.ナディア、バタフライ(Nadia, Butterfly)

監督:パスカル・プラント
出演:カトリーヌ・サバール、Ariane Mainville、ピエール=イヴ・カルディナル、ヒラリー・コールドウェル、Cailin McMurray etc

まさかの新型コロナウイルス蔓延により、2020年に東京五輪が開催されることがIFルートとなってしまった。その世界線での水泳選手の葛藤を描いた作品が『ナディア、バタフライ』であり、大阪アジアン映画祭で上映された。スポ根映画なのかと思いきや、冒頭でクライマックスともいえるリレーが行われる。有終の美を飾れず引退することになった選手の葛藤を不思議な国ニッポンの恍惚さで包み込むところが新鮮で、世界トップクラスの選手の内面が見事に抽出された作品といえよう。

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18.ファーザー(The Father)

監督:フロリアン・ゼレール
出演:オリヴィア・コールマン、アンソニー・ホプキンス、ルーファス・シーウェル、イモージェン・プーツ、マーク・ゲイティス、オリヴィア・ウィリアムズetc

認知症の視点の表象としてここまで気持ち悪く描けることに感銘を受けた。認知症により認知が歪む。歪んだ情報をベースに真実が編まれていく為、段々と時間感覚が溶解していく。観客の予測を裏切る編集によって、コントロールできない認知により追い込まれていく老人。そして外側の人間の辛辣さがヒシヒシと伝わってきた。人生100年時代。我々もいつか認知症になるかもしれないし、認知症の家族を介護するかもしれない。問題に対峙する前に本作を観ることオススメする。

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17.コントラ/KONTORA(KONTORA)

監督:アンシュル・チョウハン
出演:円井わん、間瀬英正、山田太一、小島聖良、清水拓蔵etc

インド出身監督が生み出した日本閉塞感ものは変わったアプローチによって息苦しさを捉えた。田舎町から出たい女と後ろ向きで歩く謎の男。『仮面/ペルソナ』のように女が内なる感情を吐露し、それを寡黙な男が受けていく。そんな男を演じた間瀬英正の抑圧と解放の間で苦しむ身体表象に力強さを感じました。

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16.あのこは貴族

監督:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、佐戸井けん太、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみetc

非ブルジョワの苦悩を描いた映画は多いが、双方の苦悩を並列に描いた映画はあまりないように見える。だが人生歩くと、日本にもある階級差に直面することがある。『パラサイト 半地下の家族』が階段を用いた高低差で埋まらぬ溝を描いてことに対し、本作では水平方向による眼差しでそれを表現する。そして、あまりに残酷な現実を突きつけるラストに私は涙しました。

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15.アイの歌声を聴かせて

監督:吉浦康裕
出演:土屋太鳳、福原遥、工藤阿須加、興津和幸、小松未可子、日野聡、大原さやか、浜田賢二、津田健次郎、カズレーザー etc

油断した!今年のダークホースだ。一見するとよくあるポンコツロボットものだと思っていたら、ポンコツロボットことシオンに振り回される中でいつの間にかスクールカーストのあらゆる層が収斂し『ブレックファスト・クラブ』の型が完成している様式美に感動した。そしてなんといっても柔道ミュージカルシーンが新鮮だ。かつて日本はクレイジーキャッツ映画をはじめとする明るく豪快なミュージカルが沢山作られていた。古くは『鴛鴦歌合戦』といった和洋折衷いいとこ取りしたミュージカルもあった。本作の柔道ミュージカルにかつて日本が得意としたジャンル映画の熱量を感じ、さらに土屋太鳳がそこで領域展開を行い、スタイリッシュな歌声を聴かせてくれるところにノックアウトされた。

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14.クレイジー・ワールド(CRAZY WORLD)

監督:ナブワナIGG
出演:アイザック・ニュートン・キツト、Kirabo Beatrice、Nattembo Racheal Monica、Kayibaare Fausitah、Lubega Jojo etc

アフリカ映画の世界は奥深い。雑にアフリカとくくられがちな領域において、ウガンダのインディーズ映画を掘り下げればこんなにも独創的なジャンルがあるんだと感動する。映画泥棒のCMを作り、そのCMの世界観が本編にも侵食する。映画は、デフォルトでテンション高い男のナレーションに彩られる。「ファイヤーファイヤーファイヤー」「ウガンダのコール オブ デューティ」「ヴァンダム」と無意識から生まれる言葉が映画にビートを刻み込み独特な高揚感を醸し出している。そして、ウガンダの子どもを積極的に出演させ、貧しく厳しい国ウガンダに一抹の希望を与えようとするこの映画作りは称賛に値すると感じた。

【ウガンダ映画】『クレイジー・ワールド』自称ウガンダのコール オブ デューティ

13.The Painter and the Thief

監督:ベンジャミン・リー

事実は小説よりも奇なりという、その奇に迫った作品ながらも、劇映画化したら特に注目されることなく大衆に消費されてしまうであろう。ドキュメンタリーだからこその強さがある作品だ。オスロで個展を開くBarbora Kysilkovaに事件が舞い込む。絵画が盗まれてしまうのだ。犯人がすぐに現れるも、何故か興味を持ち家に招くBarbora Kysilkova。すると犯人が泣き出してしまう。今まで相手にされなかった者が思わぬ救いの手に心が耐えられなくなってしまうのだ。そこから二人は親密な関係となり、彼女の作品のレベルも素人目でも明らかに向上していく。だがその共依存関係に綻びが生じていく。フィルムノワールのようにどんどん堕ちていくBarbora Kysilkova。目の前で起こっていることが事実なだけにどんなホラー映画よりもホラーであり、愛ほど歪んだ呪いはないと思いました。

【アカデミー賞】『The Painter and the Thief』画家が泥棒の内面を覗く時、泥棒も画家の内面を覗き込むのだ。

12.アメリカン・ユートピア(David Byrne’s American Utopia)

監督:スパイク・リー
出演:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ジャルモ、ティム・ケイパー、テンダイ・クンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サンフアンetc

正直、パフォーマンスとして中盤の中だるみがキツいのと、ラストの着地がイマイチだったこともありベストテンには入らなかった。しかしながら、『ストップ・メイキング・センス』で身体表象の妙を魅せたデイヴィッド・バーンが、語りを味方につけて鬼に金棒となった姿には興奮せざるえない。アメリカですら投票率が低く、ライブの中で「選挙に行こう」とユーモラスに語ったりするところにこの世はまだ捨てたもんじゃないと思いました。

【ネタバレ考察】『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーン時の神殿

11.Beginning(დასაწყისი)

監督:Dea Kulumbegashvili
出演:Ia Sukhitashvili,Rati Oneli,Kakha Kintsurashvili etcetc

今年は『プロミシング・ヤング・ウーマン』、『最後の決闘裁判』と抑圧される女性を描く作品が注目された。個人的にはシャンタル・アケルマン『ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン』を援用しているジョージア映画『Beginning』を推したい。凄惨なセクハラを受けた女性が、家族から呪いの言葉をかけられる。逃げ場がない状態を、洗練された画による息苦しさで表現している。最後の最後の演出にも要注目である。

【MUBI】『Beginning』燃ゆる終わりの始まりは果てしなく

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