クレイジー・ワールド(2019)
CRAZY WORLD
監督:ナブワナIGG
出演:アイザック・ニュートン・キツト、Kirabo Beatrice、Nattembo Racheal Monica、Kayibaare Fausitah、Lubega Jojo etc
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
TwitterではMCU新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を観に行き歓喜の声が多数あがっている。しかし、私が注目している作品はこれではなかった。新宿ピカデリーにて2週間限定で開催される「エクストリーム!アフリカン・ムービーフェスティバル」である。今世界から注目されているウガンダ、ワカリウッド映画3本が日本にやってきたのだ。アフリカ映画は、よく「アフリカ映画」と雑に括られてしまう傾向があり、カンヌ国際映画祭などで上映される映画、特に欧米資本が入った映画は、欧米のオリエンタリズムや社会問題意識を満足させる為だけに存在するような作品が少なくない。ブルキナファソで開催されるワガドゥグ全アフリカ映画祭(FESPACO)はその傾向に対抗し、アフリカ人のアフリカ人によるアフリカ人の為の映画を盛り上げようとしている。だが、そのラインナップをみるとナイジェリアのナリウッド映画、エジプトの大衆娯楽映画が抜け落ちている気がして、なかなかアフリカ各国のローカル映画と出会う機会がない。今回は、ウガンダ映画の解像度を上げるために初日に行ってきました。
『クレイジー・ワールド』あらすじ
アフリカ、ウガンダのアクション映画製作会社ラモン・フィルム・プロダクションが放つ“ワカリウッド”映画の1作。ワカリウッドを代表する鬼才ナブワナIGGがメガホンをとり、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020で審査員特別賞を受賞した。ウガンダ最凶の犯罪組織タイガー・マフィアは、幼児誘拐を繰り返していた。今回もうまくいくはずだったが、誘拐した子どもたちの中にカンフーマスターがいたことから、事態は思わぬ方向に。子どもたちは密かに脱出を計画し、さらにかつてタイガー・マフィアに娘を誘拐され妻を殺された兵士も参戦、大規模な抗争へと発展していく。「エクストリーム!アフリカン・ムービーフェスティバル」(2021年9月3日~/東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマ)上映作品。
自称ウガンダのコール オブ デューティ
映画ファンが一年で最も観るCMは「映画泥棒」のCMである。ワカリウッドでは独自に海賊版映画撲滅のCMが製作されており、違法で観ている人を軍人が取っ捕まえて「NO MORE映画泥棒」と訴えている。その挿入方法が奇妙であり、なんと冒頭だけでなく劇中に映画泥棒のCMが侵食し、本作の映画監督が海賊版映画を観ていたが故に逮捕されたり、終いには世界中の海賊版映画視聴者を倒す為に軍用ヘリで遠征し、パンを投げつけてくるフランス人と格闘したりする壮絶なVFXアクションを盛り込んだりしている。この自由な作風、ジャン=リュック・ゴダールやガイ・マディン映画でも観たこともない独自文法に開いた口が塞がらない。
最初にテロップで「シートベルトをつけて楽しんでくれ」と表示されるが、その意味がよく分かる。急旋回、大回転しながら縦横無尽に暴れ回る画と演出の暴力に投げ飛ばされそうになるからだ。
さて、ワカリウッド映画の特徴から話そう。まず、特記すべきは語り口である。なんと『クレイジー・ワールド』や『バッド・ブラック』では、饒舌なナレーション。いや副音声で映画が進行する。天の声が、執拗に映画のタイトルや俳優名を連呼し、格闘シーンになると、「ファイヤーファイヤーファイヤー」「ウガンダのコール オブ デューティ」「ヴァンダム」と恐らく無意識から生み出されたであろう単語が湧き出てくるのだ。それが、本作の異様に早いカット割りと連動し、独特のリズムが生まれてくる。
100年以上前、活弁士がサイレント映画に色をつけたように、ワカリウッドではチープなVFXや撮影を冗舌マシンガントークで花を咲かすのです。
ウガンダの子どもたち、身寄りがなかったり貧しかったりする子どもたちに夢を与えようと、積極的に子どもたちに活躍の場を与える。クレヨンしんちゃんばりに機敏に動き、時には金玉蹴りを浴びせ大人を狼狽させる子どもたち。そこには、ワカリウッド映画を作る大人たちの「逞しく生きてくれよ」というメッセージが込められている。子どもが解放された一瞬の油断で敵に射殺される。女、子ども、どんな背景を持とうが容赦無く死ぬ。ウガンダの厳しい環境だからこそ、生まれる男女平等な映画。これは欧米資本のアフリカ映画では迫ることのできない領域である。
ウガンダのウガンダによるウガンダのための映画は、ウガンダの子どもたちに希望を与え、将来を照らす光となるだろう。
そしてエンドロールまで驚かせてくれる『クレイジー・ワールド』は2021年のベストになんとしても入れたい。おバカ映画として馬鹿にしてはいけない、原始的映画の魅力、社会派と娯楽の絶妙なバランスに満ち溢れたオアシスであった。
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※映画.comより画像引用