【A24】『ショーイング・アップ/SHOWING UP』ケリー・ライカート、内なる世界は誰かの干渉を受けている

SHOWING UP(2022)

監督:ケリー・ライカート
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ホン・チャウ、メアリーアン・プランケットetc

評価:95点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

日本でも注目されるようになった監督ケリー・ライカート。彼女の新作『SHOWING UP』を観ることができた。前作『FIRST COW』に引き続きA24が配給となっている。ここ最近の作品はそこまで乗れないものの、本作は大傑作で合った。

『SHOWING UP』あらすじ

An artist is on the verge of a career-changing exhibition. As she navigates family, friends, and colleagues in the lead up to her show, the chaos of life becomes the inspiration for great art.
訳:キャリアを変える展覧会を目前に控えたアーティスト。家族、友人、同僚を巻き込みながら個展を目前に控えた彼女は、人生の混沌が偉大な芸術のインスピレーションとなる。

MUBIより引用

ケリー・ライカート、内なる世界は誰かの干渉を受けている

個展に向けて粘土彫刻制作に明け暮れているリジー(ミシェル・ウィリアムズ)。彼女は人との対話を避けるようにし、内なる自分を彫刻に刻み込んでいる。そんな彼女と対照的な隣人ジョー(ホン・チャウ)にモヤっとさせられる。給湯器の修理を依頼しているのに、ジョーは本能的にやりたいことを優先する。木にタイヤを括り付けて遊んでいたりするのだ。しかし、一見すると陰陽に分かれた二人だが、本質的なところで共通していたりする。例えば、リジーが猫の世話をそっちのけで作業をしようとする場面がある。猫がニャーニャーとしつこく訴えかけることで、渋々彼女は餌の準備を始める。これはリジーがジョーに対してモヤっとすることの裏返しである。

本作が面白いのは、なんといっても彫刻の扱いだろう。リジーの周囲にはさまざまなアートが提示されるが、どれも他者との共有で成立している。編み物をする人たちを横移動で捉える場面では、指導者との共同作業を撮っている。また、ドームに映像を映すインスタレーションは鑑賞者と一体となり空間が共有され、外では集団ダンスで空間が作られていく。これらと対照的にリジーは部屋に引きこもって彫刻を作るのだ。一見すると、全てを個人でコントロールできるアート作品に見える。しかし、映画はアクシデントによって彫刻が不完全なものへと変容していく。個展のシーンで提示される完成品は、素人目線からはパッとしない中途半端な作品のように思える。これぞ本作の狙いだろう。全てを支配できるように見える作品も、その中には制作者の人生や、他者との関わりで生じるアクシデントが紛れこむ。それを受容しながら制作することがクリエイターだとケリー・ライカートは語っているように見えるのである。映画監督は、基本的に他者と関わりながら時としてアクシデントを乗り越えて形に収めていく仕事。それだけに彫刻制作における独りの空間からクリエイター論を語る作風の意外性に驚かされた。

こうした理屈を差し置いても、本作は『オールド・ジョイ』に匹敵するぐらい美しい。イーサン・ローズの心地よい音楽の中、横移動で駆けていくタイヤにスケボー、猫との対話。何よりもハトの扱い。これらが最高に愛おしく心に残る作品であった。

『First Cow』が日本配給決まった的なニュースをTwitterで目にしてから一向に公開情報が流れないことを踏まえると、本作は大丈夫かなと心配になってしまうが、これは劇場公開されてほしいなと思う。

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※MUBIより画像引用